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Reflection of Music 横井一江No. 238

Reflection of Music Vol. 58 ロジャー・ターナー

(c) 2016 Kazue Yokoi


ロジャー・ターナー @深谷 ホール・エッグ・ファーム  2017
Roger Turner @Hall Egg Farm, Fukaya, October 7, 2017
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江


1970年代から即興音楽を始めとして、音楽家だけではなく様々な分野のアーティストと共演してきたイギリスのドラマー/パーカッショニスト、ロジャー・ターナーが日本に紹介されたのは2006年のことである。内橋和久が中心となって大阪のBridgeで開催されていたフェスティバル・ビヨンド・イノセンスで来日し、彼とツアーを行った。その後しばらく来日の機会がなかったが、2013年、2015年、2016年、昨2017年と定期的に日本をツアーしているので、フリー/即興音楽ファンにはその存在が随分と知られるようになったと思う。

ロジャー・ターナーとはどのような音楽家なのか。彼の演奏は共演者によって様々に変容する。例えば、坂田明との共演を観た人がウルス・ライムグルーバーとの共演CDを聴くと、個性の違うサックス奏者ゆえに全く異なったアプローチをしているため、それと知らなければ別人の演奏に思うかもしれない。だが、それにも関わらず、極小のサウンドからダイナミクスまでターナーらしい繊細さと内にあるパワーが表出している。つまり実に多くの選択肢を持っているということなのだ。これには彼のキャリアも関係しているに違いない。共演者はジョン・ラッセル、近藤等則、アラン・シルヴァ、アネット・ピーコック、ティム・ホジキンソン(元ヘンリー・カウ)、セシル・テイラー、エヴァン・パーカー、デレク・ベイリー、スティーヴ・ベレスフォード、フィル・ミントン、ミッシェル・ドネダ、アクセル・ドゥナー、チャールス・ゲイル、ウィリアム・パーカーなど多彩だ。ここからもいかに演奏経験、音楽体験から得た多様なマテリアルを持っているかがわかる。他にヴィジュアル・アーティストや映像作家、ダンスなどとのコラボレーションを行ってきた経験もまた、サウンドへの希求性を高め、即興演奏のクリシェに陥ることを回避することに役立っているのだろう。

何よりもターナーの魅力はソロで聴かせることも出来る希有なドラマー/パーカッショニストであることだ。硬質なサウンドが空間を拓き、微細な音から点描的な表現、あるいはサウンド・インスタレーションのような世界、果てはフリージャズのカタルシスまで、自在に音空間を構築する。ドラムスに内在する始源の音から、未来志向のサウンドまで空間を行き来し、音から音楽へと響きの変化を追求する冒険者の探求心を感じる。これは彼がドローイングを描くことと何らかの関係があるのかもしれない。

日本ツアーでは、佐藤允彦、坂田明のような日本のジャズ・リジェンド、現代音楽の高橋悠治、即興音楽でも長年活躍してきた大友良英、あるいはサウンド・アーティストの鈴木昭男、ダンサーの田中泯、ベテラン、中堅、若手の演奏家まで毎回数多くのミュージシャンと共演している。まるでツアーと人との巡り合わせを楽しんでいるような姿に、グローバルに動き、異文化あるいはローカルな音楽との交流を求めたペーター・コヴァルトがふと重なった。本人は意識しているのかどうかわからないが、日本という欧州の外側の世界から自らの音楽を見つめなおしているように思えたからである。日本での体験もまた彼の音楽感の広がりに寄与しているのだろう。

上記の写真を撮影したのは、深谷市にあるホール・エッグ・ファーム、共演者は佐藤允彦だった。即興演奏をよく知る者同士だけがなし得るクォリティ、類い希なひとときだった。2015年に同所で行われたライヴは『ロジャー・ターナー、佐藤允彦、大友良英/Live at Hall Egg Farm』(doubtmusic)としてリリースされているが、これもまた白眉の演奏である。

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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