Reflection of Music Vol. 64 シュリッペンバッハ・トリオ
アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ ・トリオ+高瀬アキ「冬の旅:日本編」 2018
Alexander von Schlippenbach Trio + Aki Takase “Winterreise in Japan”, November 2018
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江
【謝辞】
シュリッペンバッハ ・トリオ+高瀬 アキ「冬の旅:日本編」は無事終了いたしました。東京・ベルリン友好ジャズコンサート実行委員会委員長として、また付随するツアーを企画した者として、各会場にご来場いただいた皆さま、ご尽力をいただいた実行委員会のメンバー、各ヴェニュー、主催及び共催団体、渡航費を助成してくれたゲーテ・インスティトゥート、そして小さな支援も含めて様々な形でいろいろご協力いただいた方々に、この誌面を借りて心から感謝申し上げます。
東京・ベルリン友好ジャズコンサート実行委員会は、1996年にアレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ と高瀬アキが率いるベルリン・コンテンポラリー・ジャズ・オーケストラ (BCJO) 日本公演を行うにあたって有志が集まって作った任意団体です。その後、中核となったメンバーが再びシュリッペンバッハと高瀬アキ他を招聘して、ドイツ年協賛企画『伯林大都会−交響楽 都市は漂う〜東京−ベルリン2005』と題したコンサート開催に携わりました(会場:セシオン杉並、主催:杉並区文化・交流協会)。杉並区とは、BCJO公演の前年8月にセシオン杉並で無声映画の上映とシュリッペンバッハと高瀬アキの即興演奏、また二人と梅津和時、井野信義のカルテット編成でコンサートが行われたという縁があります(杉並区教育委員会・杉並区文化団体連合会の共催)。
BCJO招聘は、1995年5月に東京都とベルリン市が友好都市となったことから、両市の友好都市を記念してコンサートが出来ないかということが出発点だったため、このような実行委員会名がつけられました。幸いベルリン市と東京都歴史文化財団のサポートを得ることが出来、1996年の日欧混合メンバーによる特別編成でのBCJO公演が実現したのです。これまでの一連の流れを鑑みて、実行委員会を再結成するにあたり、1996年当時の名前を引き継ぐことにしました。BCJO来日時の実行委員長はジャズ評論家の故副島輝人氏でした。今回のツアーの最後を副島輝人アーカイヴ(準備中)がある慶應大学アートセンター(KUAC) との共催イベントで、シュリッペンバッハ と高瀬 アキと長いお付き合いのあった故人のアーカイヴの貴重な映像の中からシュリッペンバッハ 関連のものを一部上映出来たことを嬉しく思っております。
トリオのメンバーは無事帰国しました。彼らからの謝意もここに併せて記しておきたいと思います。
ツアーの詳細は(→リンク)
【個人的雑感】
日本ツアーのタイトルを「冬の旅:日本編」としたのにはわけがある。シュリッペンバッハ ・トリオはもう長いこと12月になると”Winterreise”(冬の旅)と題して、ドイツ国内プラス・アルファの地域をツアーしている。かつてはシュリッペンバッハ 自らが車のハンドルを握り、旅をしていた。さすがに80歳になった今はツアーのドライバー役まではしていないが、旅は続けている。彼らの来日が11月下旬だったこと、帰国後一休みしてすぐに”Winterreise”に出ることから、そのプロローグとして「冬の旅:日本編」としたのだ。今年の日本は冬の旅というにはいささか暖かすぎたが…。
シュリッペンバッハ の多岐に亘る活動の中でもエヴァン・パーカー、パウル・ローフェンス(近年はローフェンスの体調の関係で、今回来日したポール・リットンがドラマーを務めることが多くなった)とのトリオは息が長く、半世紀近く活動を続けている。このトリオは、シュリッペンバッハ の音楽におけるコアな部分がよく現れたプロジェクトで、70年代のフリージャズから即興音楽への流れがそこに凝縮されているユニットと言っていい。昔のように超絶したスピード感や爆発的なエネルギーの放射はないが、今なおその音楽がフレッシュに我々の耳を捉えるのは、即興演奏をある種の型の中にキレイに収めるのではなく、異質なものを受け入れることも、そこから踏み外すことも想定した運動性が保持されているからである。新宿ピットインでは昼の部に「ラクダカルテット」で出演していた林栄一をステージに呼び込むというサプライズがあったのも開かれた音楽性のひとつの現れと言っていい。シュリッペンバッハ だけではなく、エヴァン・パーカーやポール・リットンの達人と言っていい技量の高さと唯一無二の音楽性については敢えて語るまでもないだろう。
興味深かったのは、座・高円寺での一部、またゲストで高瀬アキ参加した連弾で、シュリッペンバッハとのタッチの違いがはっきりわかったこと。高音部に座っている高瀬が低音部に手を伸ばして弾いている時など、明らかにその違いが立ち現れてきて面白かった。それぞれのキャラクターが如実に表れていたともいえるのではないか。それにしても、シュリッペンバッハ の音色は彼固有のものがあり、CDでもライヴでもすぐにそれとわかる独自のピアニズムを持っている。
今回のツアーのトリオの演奏を観ながら、私はふと北斎を思い浮かべていた。5年前、2013年に京都でセシル・テイラーと田中泯との共演を観た時は、長谷川等伯だった(→リンク)。なぜ北斎だったのか。ごくごく直感的なことだったのだが、三者の音を聴き取る能力の凄さを感じていたからかもしれない。言わずもがなだが、北斎の観察眼、動体視力の高さはつとに知られているところである。高い集中力と聴取能力の高さがサウンドに繋がっていく様が、その高い演奏能力が、そして絶妙な構成力からそのようなことを思い浮かべたのかもしれない。彼らの演奏は完成されているようだが、実はオープンで刺激的である。それを保ち続けていることこそがこのトリオの魅力なのだと。
12月3日からトリオの”Winterreise”がスタートする。どうかよい旅を!
写真を撮影することが出来た座・高円寺、横濱エアジン、新宿ピットインでのリハーサルも含めた演奏風景をスライドショーで。
座・高円寺2 2018年11月23日
ZA-KOENJI, November 23, 2018
横濱エアジン 2018年11月24日
Yokohama Airegin, November 24, 2018
新宿ピットイン 2018年11月26日
Shinjuku Pit-Inn, November 26, 2018