Reflection of Music Vol. 70 JAZZ ART せんがわ 2019
JAZZ ART せんがわ 2019
JAZZ ART SENGAWA 2019
Photo & text by Kazue Yokoi 横井一江
今年4月、調布市せんがわ劇場が指定管理者制度を導入したことに伴う事業見直しにより、調布市生活文化スポーツ部文化生涯学習課は、せんがわ劇場開館以来続いてきた事業であるにも拘らず「JAZZ ART せんがわ」の事業終了を決定した。しかし、それに納得のいかないプロデューサー陣(巻上公一、藤原清登、坂本弘道)を始めとする関係者有志が立ち上げたJAZZ ART 実行委員会の粘り強い交渉によって、事業予算こそ得られなかったものの調布市共催で第12回JAZZ ART せんがわの開催に漕ぎ着けたことを本当に嬉しく思った。どう考えても、いったん事業終了したイベントが復活する可能性は非常に低い。共催とはいえ協力を取り付けたことでそれを覆したことは特筆に値する。4月17日に「JAZZ ART 存続宣言!スペシャルライブ」を行ったり、Web上で署名活動を行ったことも功を奏したのだろう。(→リンク)
調布市の共催は得られたにしてもフェスティヴァルの予算規模が大幅に縮小したことから、例年に比べてコンパクトな開催となったのは否めない。以前は期間中必ずどこかで見かけた「CLUB JAZZ 屏風」が街中に出たのは最終日のみ。JAZZ ART せんがわの動く広告塔だっただけに少し寂しかった。公園ライヴも同じく最終日だけの開催。調布市民とのダイレクトな接点があり、子供たちにとっては格好の遊びネタともいえるが、街に出ることによって、音楽家/パフォーマーにとっても刺激を得られることから思わぬパフォーマンスが期待できる。このような企画にこそ、都会のホールでのコンサート/イベントにはない面白さがあるだけに、1日だけというのはもったいなかった気がした。とはいえ、時々自動による「子どものための音あそび」 が行われたように実行委員会開催となったものの調布市のイベント、仙川という街があってこその「JAZZ ART せんがわ」であることを示していた。ひとつ残念だったのは、今まではフェスティヴァル関連イベントとして開催前に行われていた子供向けワークショップが行われなかったこと。そこで作られた作品が仙川劇場のホワイエにペタペタと貼り付けられていて、それがなんとも個性的で可愛かっただけに壁の空疎感がなんともいえない。このようなことからわかるように、他の場所で音楽的に同種のフェスティヴァルを自主開催してたとしても「JAZZ ART せんがわ」のフェスティヴァルとしての継続性は終わる。仙川で培われてきたものはやはり大きい。場、地域との繋がりがあってこその「JAZZ ART せんがわ」なのだと再確認したのだった。
プログラミングはこれまでの「JAZZ ART せんがわ」のコンセプトを維持したものだった。フェスティヴァルの名称にJAZZという文字があるものの、いわゆる一般的にイメージされるようなわかりやすい「ジャズ」ではなく、ジャンルというボーダーに捉われず活動する多種多様な音楽家が今年も出演していた。継続的に活動しているユニットでの演奏もあったが、独自のプログラムによるここでしかない出会いがある。それを可能にしていたのは「即興演奏」だ。「JAZZ ART せんがわ」という場において、バックグラウンドを異にする音楽家が出会うことで生まれること。かつて、ジャズが進化していく中で他の音楽的要素やスタイルが融合されてきた。それに似通ったことが即興演奏の中で試みられる。その開かれた音楽における探究に、私は創造活動の面白みと醍醐味を感じるのだ。それは音のミッシングリンクを探す冒険にも思える。
今年の「JAZZ ART せんがわ」は実行委員会主催、資金的には非常に厳しい状況だったため、欧州の音楽フェスティヴァルに比べると破格の(安い)ギャラで出演してくれたミュージシャンの「続けたい/続けようよ」という気持ちと理解なくしては開催出来なかったことも確かである。そしてまた、クラウドファンディングを始め様々な協力してくれた人や企業、地元の理解あってこその開催だった。しかし、同じかたちで来年以降も継続するのは無理がありすぎる。状況から考えると仕方なかったとはいえマネジメント面での課題や広報、チケッティングなどでも工夫すべきことは多い。来年は調布市による開催になるのか、ならないのか。いずれにせよ、フェスティヴァルが終了したその翌日から来年へ向けての準備期間は始まっているといっていい。
全てのプログラムとはいかなかったが、写真撮影できたステージを下記にスライドショーとしてまとめてあるので、ご覧いただければと思う。
(推奨ブラウザ:Safari、 Google Chrome)
9月12日(木)@せんがわ劇場
藤井郷子 (piano) +ラモン・ロペス (drum) + 田村夏樹 (trumpet)
『Cofluence』(Libra) をリリースした藤井郷子&ラモン・ロペスに田村夏樹が参加したトリオでの出演。今回の日本ツアーでは毎日新しい曲を書くことがメンバーに課されていたそうだが、田村が加わっていることもあって、藤井・ロペス・デュオにはないような展開やアグレッシヴな演奏も。
9月13日(金) @せんがわ劇場
ヒカシュー[巻上公一 (vo, theremin, tp, etc) 三田超人 (g) 坂出雅海 (b) 清水一登 (p) 佐藤正治 (ds)]+吉田隆一 (bs, fl, b-fl)
「JAZZ ART せんがわ」のひとつの顔、ヒカシューは毎年異なるゲストを迎えて出演している。今年はバリトンサックスの吉田隆一。バス・フルートやフルートも用いてフロントラインをキメていた。取り上げていたのは新旧の耳馴染みのある曲だったが、まさかここでデビュー曲<20世紀の終わり>を聴くとは。結成40周年ということだが、これほど自由で自在なバンドは他にない。
9月14日(土)@せんがわ劇場
ZVIZMO[伊東篤宏+テンテンコ]+ 藤原大輔 (sax) × 伊藤千枝子 (dance)
ZVIZMO[伊東篤宏+テンテンコ]と 藤原大輔 、伊藤千枝子 という異なるバックグラウンドを持つ演奏家/パフォーマーによるステージ。ZVIZMOのパフォーマンスは刺激的、ここに藤原大輔がいることに不思議なくらい違和感がない。ふと藤原のphatでの演奏を思い出していた。4月末に「珍しいキノコ舞踊団」を解散して間もない伊藤千枝子だが、サウンドを取り込み、コラボレーションができる稀有なダンサーでステージでの彼女の存在感は大きい。
さがゆき(vo) × 巻上公一 (vo) + ザ・セカンド・アプローチ・トリオ The Second Approach trio[アンドレイ・ラジン Andrei Razin (p, per, vo) タチアナ・コモーヴァ Tatiana Komova (vo, per) イーゴリ・イヴァヌシキン Igor Ivanushkin (b, per)]
抜群の演奏技術と構成力を持つロシアのザ・セカンド・アプローチ・トリオだが、ピアニストのラジンとヴォーカルのコモーヴァの掛け合いがコミカル。そういうパフォーマンスを交えるところに、音盤ではなくステージ・パフォーマンスで聴衆を得てきたソ連時代からの流れを感じる。このトリオに、冒頭にデュオで登場した巻上公一とさがゆきが加わったシーンは絶妙な顔合わせによる絶妙なセッションだった。
坂本弘道 (cello) +中村達也 (ds)+入手杏奈 (dance)
坂本弘道が迎えたのは、即興演奏家や田中泯との共演でもその才を発揮してきた人気ドラマー中村達也、そして ダンサーの入手杏奈 。動と静、激しい動きやサウンドと間合い、音と身体表現による三者の交歓は、ひとつのドラマを描くように展開していった。印象深かったステージ。
李世揚 Shih-Yang Lee (p) ×太田惠資 (vln) + プラエド PRAED[ラエド・ヤシン Raed Yassin (key, laptop, electronics, vo) パエド・コンカ Paed Conca (cl, electronics)
レバノンをベースに活動するプラエドは、ラエド・ヤシンとパエド・コンカによるユニット。コンカはスイスのクラリネット奏者によるトリオ「ポルタ・チューサ」のメンバーとしても知られる。中近東の大衆音楽とフリージャズ、エレクトロニクスが融合したサウンドのグルーヴ感がなんともいえず、ダンスを誘うようなシーンも。プラエドに李世揚と太田惠資が加わったセッションでもそのノリが続くかと思いきや、シリアスな即興演奏が展開し、異なる側面も見せていた。
9月15日(日)@仙川フィックスホール
佐藤允彦 (p) +瀬尾高志 (b) +レオナ (tap dance)
今年は他の仕事の関係で自身での演奏はなかった藤原清登による企画。日本ジャズ界のレジェンド、佐藤允彦と近年色々なバンドで活躍している瀬尾高志 、そしてタップダンサー、レオナとの初顔合わせ。レオナのタップダンスはとても音楽的で、目を瞑っているとパーカッショニストの演奏を聴いているようだ。佐藤のピアノは知性と熟練の技で若いパワーに対峙。そのサウンドはフレッシュ。
フィナーレ
池澤龍作(ds) 泉邦宏(sax)、伊藤千枝子(dance)、佐藤直子(perc)、四家卯大(cello)、福原千鶴(小鼓)、柳家小春(三味線)、吉田悠樹(二胡)、吉田隆一(sax)、高岡大祐(tuba)李世揚 Shih-Yang Lee (p) 坂本弘道 (cello) 巻上公一 (vo) ザ・セカンド・アプローチ・トリオ The Second Approach trio[アンドレイ・ラジン Andrei Razin (p, per, vo) タチアナ・コモーヴァ Tatiana Komova (vo, per) イーゴリ・イヴァヌシキン Igor Ivanushkin (b, per)]三田超人 (g)
公演ライヴに出演したミュージシャン、またザ・セカンド・アプローチ・トリオなどが参加。参加者が色々な組み合わせで次々と演奏する様は、まるでデレク・ベイリーが始めた即興演奏家のプール「カンパニー」ではないか。ある種の即興フェス状態。この手法はまだ有効である。ちなみに、今年も行われていたワークショップはイギリスのフリージャズ〜即興音楽の嚆矢、ジョン・スティーブンスの『Search and Reflect』をベースにしたもの。
FIN…