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特集『ECM: 私の1枚』

末冨健夫『The Music Improvisation Company』
『ザ・ミュージック・インプロヴィゼイション・カンパニー』

ECMらしさとかECMカラーと言った視点から見ると少々反則のようにも思えるが、とにかく『The Music Improvisation Company』(ECM 1005 ST) を紹介させていただく。ECMの膨大な作品群の中から10枚を選び出すのも相当困難だが、1枚となるとわりと簡単に選べた。

デレク・ベイリー(g)、エヴァン・パーカー(ss)、ヒュー・デイヴィス(electronics)、ジェイミー・ミューア(perc)の四人に2曲ほどクリスティン・ジェフリー(vo)が加わったベイリーが言うところのノン・イデオマティック・インプロヴィゼイションが繰り広げられる1枚。
録音は、1970年8月25~27日にロンドン、マーサム・スタジオで行われた。ジェフリーを除く4人は1968年から共演を続けていたようだ。
フリー・ジャズ旋風が吹き荒れた60年代も後半になると、スティーヴ・レイシーの有名な言葉に「フリー・ジャズは1967年に終わった。」があるが、アフリカン・アメリカンの演奏するフリー・ジャズの役目は一旦終わりを迎えたかのように思われたが、70年代にはロフト・ジャズ・ムーヴメントで息を吹き返した。
それを横目に60年代終わり頃になると俄然ヨーロッパが活気づく。明らかにフリー・ジャズとは異なる新たな即興演奏の勢力が台頭し出した。ドイツのペーター・ブロッツマン、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハ、ペーター・コヴァルト、ギュンター・ハンペル、マンフレート・ショーフ等々や、オランダのハン・ベニンク、ヴィレム・ブロイカー、ミシャ・メンゲルベルクらが、独自のフリー・インプロヴィゼイションを行っていたが、ベイリーやパーカーらの即興演奏はよりジャズから遠い地平を垣間見せてくれた。その最初期の記録がこの『The Music Improvisation Company』なのだ。これがECMから出たのは今から見ると不思議かもしれないが、マンフレッド・アイヒャーからのオファーがあって録音されたものなのだった。その前にアイヒャーはブロッツマンのアルバムを制作しており、不思議でも何でもないのだ。だが、そうは言っても現在のECMから見ると異質に映るのは仕方がないだろう。
ところで、このアルバムだが、私が高校生の時の修学旅行で東京に初めて行った時(1977年?)に、お茶の水のディスクユニオンで中古盤を買ったのだ。もう1枚はこれもECM盤で『デイヴ・ホランド/デレク・ベイリー:Improvisations For Cello and Guitar』(ECM 1013)だった。ジャズを聴き出してあまりたっていなかった高校生の時、何を思ったかこの2枚を買ってしまった。今となっては、なぜこれらだったのかよく思い出せないが、これが今の私を形成する第一歩だったのは確か。ECMと言えばキース・ジャレットのケルン・コンサートや、チック・コリア&ゲイリー・バートン、リターン・トゥ・フォーエヴァーと来そうなものだが、これらを買ったのは随分後の事だった。それらの前に、ポール・ブレイ、マリオン・ブラウン、バール・フィリップス、サークルを集めていたのだから、こうなってしまったのは自然の成り行きか。まさか、この私が後年エヴァン・パーカー、デレク・ベイリー、バール・フィリップス、ワダダ・レオ・スミスと言ったECMミュージシャン(と言っていいのかどうか?)のCDを制作するようになるとは、当然ながら当時は想像すらしなかった。
ECMはオーディオにも大きな影響を与えていると思う。ECMで録音されたジャズは、それまでのブルーノートの録音に典型的な音がぐいぐいと前に出て来て、トランペットなんかだとこっちに飛んで来るような、ベースが迫力を持って押し寄せて来るといった再生音とは大きく違った。ECMのクールでクリアーな音で録音されたジャズは、クラシック寄りの再生音になり、空間的な鳴り方になっている。と、なると火を噴くような再生をするオーディオ・システム(古いタイプのJBLモニタースピーカー等)よりもヨーロッパ製のもっと音場が上下左右に広がって聞こえ、音のエッジがあまり立たないクラシックが似合いそうなシステムで聴きたくなってくる。今や火を噴くような熱い音でジャズを鳴らすスピーカーは姿を消したに近い状態だ。もし、ECMが現れなかったら、ジャズの録音の仕方、再生の仕方も今とは違っていたかもしれない。音楽そのものを変え、オーディオの再生まで影響を及ぼすこんなレーベルは他には古今東西見当たらない。
ところで、ECMから姜泰煥さんのCDが出ると噂が立ったことがあったが、真相やいかに?(ちゃぷちゃぷレコード・プロデューサー)


ECM 1005 ST

The Music Improvisation Company
Derek Bailey (Electric Guitar)
Evan Parker (Soprano Saxophone)
Hugh Davies (Live Electronics)
Jamie Muir (Percussion)
Christine Jeffrey (Voice)

1 Third Stream Boogaloo (Christine Jeffrey, Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 02:36
2 Dragon Path (Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 10:23
3 Packaged Eel (Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 08:42
4 Untitled No. I (Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 07:05
5 Untitled No. II (Christine Jeffrey, Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 07:32
6 Tuck (Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 03:04
7 Wolfgang Van Gangbang (Derek Bailey, Evan Parker, Hugh Davies, Jamie Muir) 07:05

Recorded August 1970, Merstham Studios, London
Produced by Manfred Eicher

末冨健夫

末冨健夫(すえとみたけお) 1959年生まれ。山口県防府市在住。1989年、市内で喫茶店「カフェ・アモレス」をオープン。翌年から店内及び市内外のホール等で、内外のインプロヴァイザーを中心にライヴを企画。94年ちゃぷちゃぷレコードを立ち上げ、CD『姜泰煥』を発売。95年に閉店し、以前の仕事(貨物船の船長)に戻る。2013年に廃業。現在「ちゃぷちゃぷミュージック」でライヴの企画、子供の合唱団の運営等を、「ちゃぷちゃぷレコード」でCD/LP等の制作をしている。リトアニア NoBusiness Recordsと提携、当時の記録を中心としたChapChap seriesをスタート、第1期10タイトルに続き、今秋から第2期がスタートする。

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