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特集『ECM: 私の1枚』

神子直之『Eberhard Weber / Silent Feet』
『エバーハルト・ウェーバー/サイレント・フィート』

早いものでもう40年以上、聴き続けています。

聴き始めた頃は、FM雑誌で空色の文字で表示されていたジャズの曲が、NHK-FMのクロスオーバーイレブンなどで放送されていました。曲単位でエアチェック(録音)して、繰り返し聴いたものでしたが、その中にECMの曲がそこそこあったようです。高田馬場のムトウというレコードショップでECMの国内盤や直輸入盤を購入するようになりました。

ジャズを聴いてはいたのですが、ブルージーな雰囲気や情念を込めた音楽作りにはどうにも馴染めず、一方で心地よいフュージョンで新たな音楽を掘る必要性も感じず、ECMの空気感に安直に惹かれていったのでしょう。

Jan Garbarek, Ralph Towner, Azimuth、さらにはKeith Jarrett, Pat Methenyと聴き進んでいくうちに、一枚のアルバムにたどり着きました。

Eberhard Weber “Silent Feet” (ECM 1107 ST)

Real Bookに”Colors Of Chloe”が確か載っていた(今調べたら、第5版までは掲載されていますが、第6版からは外れているようです。)ので、音より楽譜を先に知っていて、「どんな音になるのだろうか」とワクワクして当該アルバムを聴き、その他、時にクラシック色の強いWeberのアルバムを何枚か買った中にこれがあったようです。

A面は<Seriously Deep(邦題:深海)>1曲のみでほぼ18分。しかもEドリアンが基本。途中でF#ペダルになるが。Coltraneの<My Favorite Things>並みに熱いかと思いきや、それぞれ盛り上がりはするものの、ドラムの乾いた感じのせいか、冷徹さを残し重くならない。「何がそんなに深い?」とイメージをかきたてる。

B面1曲目は表題曲<Silent Feet>12分強で、抽象的なイントロから16 beatに乗る3連符のテーマとそれに基づくアドリブソロ、続いてドラムソロ用の分数コード5つの平行移動で構成される中間部。ここが「silent feet(静かな足?)」か。このような同時に演奏されているリズムと離れた形でのドラムソロ、何かとの対立を表しているのだろうか。全体として、ジャケットのアートワーク(ジャケット中に同サイズの別のアートが入っているのも嬉しい)の動物の絵のように、どこかユーモラスだ。

B面2曲目が私の大好きな<Eyes That Can See in the Dark(邦題:透視)>。静かなフリーのイントロから、シンセの弾き延ばしにソプラノとアルコのユニゾンで奏されるメロディー、アドリブパートはイーブン8分音符の6拍子。ここでのピアノとソプラノのアドリブパートが秀逸で、4人がそれぞれ勝手にやりたいようにやっていて全体として調和の取れた音楽になることに成功している。このような現象は、アドリブソロでどのコードトーンを用いるか、どのスケールを用いるか、細分化された音価で行くかゆっくりのフレーズで行くか等々はどうでも良い、音楽作りのルールを超越したところに稀に出現する。

さらに、ここで表現される音楽は、どう言ったら良いのだろう、音を出すよろこび、音楽をするよろこび、共存しているよろこび、自分が生きていることのよろこび、に深く繋がっている気がするのだ。それは、散々言われてきたことと同じかもしれないが、様々な差別等の不条理よりむしろ、それも含めて今を肯定する強い精神力が根底にある、そういう表現だと思えるのだ。

いま、ECMのカタログは1800種を越えるアルバムで構成されると聞きますが、ここでピックアップしたものはその100種類目を少し越えたところのアルバムでした。45年前に録音されていますが、何度聴いても新鮮に響きます。最近のECMの諸作を網羅的に把握することはもう私には困難ですが、その後の発展、新しい音楽や美意識を時たま楽しみつつ、ECMが築いてきた足跡をまだまだ楽しみたいと思います。


ECM 1107

Colours:
Eberhard Weber (Bass)
Rainer Brüninghaus (Piano, Synthesizer)
Charlie Mariano (Soprano Saxophone, Flutes)
John Marshall (Drums)

1 Seriously Deep (Eberhard Weber) 17:48
2 Silent Feet (Eberhard Weber) 12:10
3 Eyes That Can See In The Dark (Eberhard Weber) 12:20

Recorded November 1977, Tonstudio Bauer, Ludwigsburg
Produced by Manfred Eicher


神子直之  かみこなおゆき
東京生まれ。東京大学工学系研究科都市工学専攻博士課程修了。高校生時代に出会ったECMミュージックがやりたくて東大ジャズ研に入る。現在、ピアニストとして年に数十回のコンボやビッグバンドでのライブ、ジャムセッションホストを在住の関西および東京で行っている。「Azimuth」の大ファンで、今は無きgeocitiesでKenny Wheeler (incomplete) discographyを執筆・ネット上で公開していた。好きな作曲家はマーラー、オネゲル、デュティユーなどなど。

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