MJQ<朝日のように爽やかに>
ラジオ日経「テイスト・オブ・ジャズ」 小西啓一
“JAZZ TOKYO” 創刊20周年、お目出度う御座います。これもひとえに編集長の稲岡邦彌氏始め、スタッフの方達の貢献と努力の賜物で、心からのエールを…。
さて今回20周年記念特集のテーマは“私のジャズ事始”。今からもう半世紀以上前、ぼく自身がまだ高校生の頃~アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズの初来日を契機に巻き起こった、第一次モダン・ジャズ・ブーム、その真っ只中に高円寺のレコード屋の店頭で偶然耳にした、MJQ (Modern Jazz Quartet) の<朝日のように爽やかに…>。彼らのクラシカルにしてブルージーな何とも蠱惑的な音世界、それに今風に言えばいたく“ハマって”しまった。っそしてそのままずっと現在まで…という次第なのだが、まあこんなことをズラズラ記しても詮無い処…。
さてぼく自身の“ジャズ事始”といえば、ラジオ局(現ラジオ日経~旧ラジオたんぱ)に入局、念願のジャズ番組を担当した辺りだろうか…。番組は「テイスト・オブ・ジャズ」。当時流行っていたハーブ・アルパート&ティファナ・ブラスの<テイスト・オブ・ハニー(蜜の味)> から拝借したもので、番組は60年の長きにわたり現在までも続いている。日本のジャズ番組いや恐らく世界中を探しても、これだけ長期のジャズ番組はそう無いと思うのだが、超の付く長寿ジャズ番組である。この番組を企画制作したのは、局の先輩プロデューサーだった故木全信氏。ジャズ業界ではかなり知られる存在だった氏は、レコード会社(RCA&ALFA)に移籍し、ケニー・ドリューなど数多くのジャズ・アルバムを制作したのだが、彼が局を離れる…という時にあとを任されたのがかく申すぼく。それ以来1、2ヶ月のオンエアー・ブランクやぼくが制作セクションを離れる…などということもあったりしたが、50年余りの長きにわたりほぼ一貫して番組は継続、ぼくがその制作担当を続けている。
現在の「テイスト・オブ・ジャズ」は、日曜日夜19時からの30分番組。進行役はフリー・アナウンサーの山本郁(かおる)。曲を掛けながらゲストのミュージシャンやシンガー、ジャズ関係者などとトークして行くという、気の置けない軽やかでノンシャランなスタイルのジャズ番組で、彼女が担当してもう20年余り。それまでも局アナが担当していたが、彼女のように長く続いたのは初めてのこと。ミュージシャンやシンガーからの信頼も厚く、彼女に会いたくて…等といっ不純な動機(?)で、ゲスト参加を申し込んで来る輩も少なくない。もう60年の歴史を誇る番組だけに、日本のジャズ・ミュージシャンやプロデューサーなど、ジャズに関わる面々は殆ど一度は番組に登場しているはずで(”JAZZ TOKYO“の稲岡氏も時々顔を見せる)、これまでゲスト参加が無い大物といえば、上原ひろみぐらいなもの。企画もゲスト次第だが、決まり事は正月最初の放送は、いわゆる大物ミュージシャンをスタジオに招き、1年間の抱負などを伺う内容で、今年は小曽根真を招いた。また4月第1週は新人(新入生、新社会人など)向けのジャズ入門講座を、ミュージシャンやライターにお願いする。また猛暑の8月はラテン・ジャズ&サルサ月間で、その筋のミュージシャンに登場してもらい、3、4週にわたって暑さを吹き飛ばす…といった具合。安易といえば安易だがこれが長続きの秘訣かも…。
ところで“ラジオ日経(旧ラジオたんぱ)”というラジオ局、その局名どおり短波(ショート・ウェーブ)によるラジオ局だけに、音質の問題などでかなりな難点を抱えている。それだけに昔はゲストの面々からも、“どこで聞けるの…、南極の基地…(そこ向けの放送などもありました…)” “時々聞きづらいよね…。受信機は…、音質は…”などと詰問(?)されることもしばしばで、若かりし頃は肩身の狭い思いもしきり…でもありました。しかし、しかしなのである! 初めての番組担当以来かなりな時が経った2010年。ラジオ業界の衰退を憂いた某大手広告代理店の肝いりで、新たにパソコンやスマホで、手軽にラジオを聞くためのアプリ“ラジコ”が立ち上がった。これによりラジオ聴取状況も一変、全国を一波でカバーしている“ラジオ日経”(“ラジオたんぱ”)の強みが最大限に生かされることになる。この“ラジコ”聴取調査での全国ラジオ聴取数(ラジコは聴取実数が出る…)では、ラジオ日経の番組もかなり上位にランク・インするようになり、我が「テイスト・オブ・ジャズ」もラジコのタイム・フリー・ランキング(放送後1週間は番組を自由に聞けるシステム)で、当初は余りぱっとしなかったのだが、4年目ぐらいから全国第3位ないし2位…等という、これ迄では考えられない様な予想外の数を記録、ランク上位に位置付けされる様になった。ようやく積年の制作労苦が報われた嬉しい思いで、チャンジー(爺さん)の今は、まさに“石の上にも…十年”の心境です。
…とテーマの「ジャズ事始」とは、いささか趣旨が違うかも知れませんが、気楽にジャズを愉しめる番組でありますので、ぜひ皆様もご愛顧のほど…。
https://www.radionikkei.jp/music/616_2.html
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