V.S.O.P. @田園コロシアム 早田和音
「私のジャズ事始め」というお題をいただいた。ジャズという音楽の存在を知ったのは高校生の頃。時は1970年代 中盤。ジャズとロックが互いに近付き合っていた時代で、田舎のロック少年の耳にもそれとなくジャズが耳に入ってくるようになっていた。そんな諸々のジャズとの接点の中で、僕が完全にジャズに入り込んでしまった瞬間は、今でもピンポイントで覚えている。それは1977年7月23日午後2時の田園コロシアム。V.S.O.P.のコンサートだった。暦の上で大暑と呼ばれるその日はまさに雲ひとつない青空。マチネのチケットを手にした僕は、擂鉢状になった野外アリーナ席で、じりじりと肌を刺す強烈な日差しを浴びながら開演を待っていた。拭えども拭えども溢れる汗を吸い、手にしたタオルがもはやその用を為さなくなった頃、“Let’s have a warm welcome for The V.S.O.P. Quintet”というアナウンスとともにハービー・ハンコック、ロン・カーター、トニー・ウィリアムス、ウェイン・ショーター、フレディ・ハバードの5人がステージに現れ、すぐさまハービーがガツンとFのブルース・コードを鳴らした。そしてその瞬間、僕の肌が総毛立ち、それまで僕を苦しめていた暑さが消えてしまった。それが「僕のジャズ事始め」。あの時の高揚感はいまだに忘れられない。それ以来、あの時のあの感覚を求めてライヴに通い続けている。