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特集『私のジャズ事始』

ベニー・グッドマン『ライヴ・イン・モスクワ』 五野 洋

1967年早稲田に入学、文学部キャンパス奥にある体育局の建物で体育の授業の登録を済ませて帰ろうとしたら、古い木造の長家から楽器の音が聞こえて来た。

興味津々で中に入ると右手一番奥の部屋にドラムが置いてあった。誰もいないので勝手に叩いて遊んでいたら、誰かが入って来て「君、ドラム叩くの?」と聞かれた。慌てて「いや、叩けません。ギターなら少し弾けます。」と答えたのが、いま思えばジャズとの遭遇だったのかも知れない。その部屋はハイソの部室だったのだ。ハイソのハの字も、ダンモ研のダも知らずに、というよりジャズのジャの字も知らずに、その先輩に誘われハイソに入部してしまった。高校時代エレキブームの洗礼を受け、ヴェンチャーズやアストロノーツのコピーバンドをやっていただけの若者がジャズのビッグバンドでギターを弾ける訳がない。右も左もわからないまま、練習を見学したり、楽器を運んだりするうちに少しずつわかって来たのはギターはただひたすらリズムを刻むだけ、ということだった。そのうち当時のハイソのレパートリー「フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン」や「ムーン・リヴァー」が入ったアルバム『ジス・タイム・バイ・べイシー』が欲しくなりステレオもないのに買ってしまい、先輩の家でかけてもらって何回も聴いた。というわけでこのLPが自分で買った最初のジャズアルバムになった。

一年の夏休みに実家で父のレコードの中にジャズがないか調べたら、ブルーノ・ワルターやアイザックスターン、ジョージ・セルに混じってグレン・ミラーやベニー・グッドマンがあった。ということはスイングジャズを聞くとはなしに耳にしていたことになる。中でもベニー・グッドマン『ライヴ・イン・モスクワ』(Victor 1963) はパーソネルを見たらメル・ルイス(ds)、フィル・ウッズ(as)、ズート・シムズ(ts)、ジョー・ニューマン(tp)等ジャズ喫茶で名前を覚えた強力メンバーを含むビッグバンドがスイングしまくっているではないか。いま思えば、これこそ私のジャズ事始、ビッグバンド事始だったと意を強くした。実家からもらい受け今でも愛聴している。


五野 洋(いつの・ひろし)
1948年西宮生まれ。早稲田大学商学部卒業。早大ハイソサエティ・オーケストラOB(ギター担当)。ポリドール、ポリグラム、ユニバーサルでジャズを担当後、2004年55 RECORDSを設立。中村健吾、ジェシ・ヴァン・ルーラー、ロバータ・ガンバリーニ等のアルバムをリリース。2007年鈴木良雄、伊藤潔、タモリと共にONEレーベルを設立。鈴木良雄、増尾好秋、大野俊三のアルバムをリリース。

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