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特集『私のジャズ事始』

『モダン・ジャズ・サックス・ア・ゴー・ゴー』 田崎浩司

初恋の相手を紹介する訳でもないのに、60年も前のジャズ事始めとはちょっぴり気恥ずかしい感もしますね。
電気技術者だった父親が自作のアンプでスイングジャズ (特にベニー・グッドマン) を工作室で流したりしていたので、小学生の私にとってジャズは身近なものではありました。
私が小遣いで初めて買ったレコードは、日本ビクター発売 フォンタナ SFON10034 「モダン・ジャズ・サックス・ア・ゴー・ゴー」というリバーサイド原盤を元にしたコンピレーション。中身はキャノンボール・アダレイ、ソニー・ロリンズ、ジョン・コルトレーン、エディ・ロックジョーとジョニー・グリフィン、コールマン・ホーキンス、ジェリー・マリガンというラインナップ。中学生の私には新鮮で魅力的なものばかり。特にソニー・ロリンズの「ジャスト・イン・タイム」はソニー・クラークのピアノソロと共に大のお気に入りとなりました。
今ではいっぱしのコレクター? 気取りでいますが、最初に買った1200円のこのレコードがその後のジャズ三昧の始まりかと。まあ初めにつまらないレコードを買っていたらジャズの地獄に落ちる事もなかったとも言えますがね(笑)
ジャズの魅力にハマれば後は脇目も振らずに一直線。数少ないレコードと、当時放送されていたラジオのジャズ番組を聴くことが日課になっていました。日本短波放送には番組冒頭にコルトレーンの「アフロ・ブルー」から始まる30分の番組がありました。リクエストのハガキを出すとレコードが当たるのです。私にはジャンゴ・ラインハルトのレコードが送られて来ました。クラリネットのユベール・ロスタンがとても素敵な演奏でした。そうそうこの番組でジョン・コルトレーンの死亡の一報が入ったのです。今では死因もはっきりしていますが、この時は当時起こっていたシカゴ暴動に巻き込まれたのではとの情報でした。1967年のアメリカは世情不安でしたしね。この頃になるとキングレコードがインパルスを直輸入盤で発売しました。マイルスからオーネット・コールマン、アルバート・アイラーまで聴いていた私ですが、どうしても聴きたかったのがチャーリー・パーカーです。
ヴァーブのベスト盤やダイアル原盤の「バード・シンボルズ」は聴いていましたが、その他のレコードは地方住まいの私には手が届きませんでした。発狂?寸前のラバー・マンの演奏ってどんなんだろうと想いは深まるばかり。そんな中たまたま雑誌の広告にイギリスのSociety盤が載っていました。ダイアル原盤で「ラバーマン」も入っている!すぐさま在庫の確認をし、現金書留 (懐かしい) を送りました。いつ来るかいつ来るか待ち通しい日々、ついに我が家に届きました。安っぽいペラペラのジャケット、赤いバックにパーカーの顔、もうそれだけで感激です。このレコード、タイトルの「オーニソロジー」一曲以外はダイアル原盤からのもの。素晴らしいパーカーが聴けます。それでもその後の私に決定的な影響を与えたのは、A面1曲目に収められた「オーニソロジー」でした。カフェソサエティでの演奏、パーカーと共にバド・パウエル、ファッツ・ナバロを含むクインテットの1曲です。出だしのバド・パウエルのイントロから私の魂を鷲掴みです。パーカーも凄いがファッツ・ナバロも凄い。この一曲がその後の私のコレクションに色合いを決定付けます。とはいえ当時バップ期のレコードなんておいそれとは手に入る状況にはなく、長い長い時間をかけてパーカー、パウエルを中心としたレコード、SPを集める事となりました。今ではほぼ?満足できる状態になりましたが、やはり始まりはSociety盤の「オーニソロジー」ですね。今聴いても全く色褪せない究極の一曲です。


田崎浩司 72歳
神保町「アディロンダック・カフェ」居候

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