JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 52,335 回

GalleryNo. 259

Gallery #38 ミニCD『阿部薫+佐藤康和デュオ/恋人よ我に帰れ』

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

タイトル:『阿部薫+佐藤康和デュオ/恋人よ我に帰れ』
企画番号:PSCD-1016
制作データ:阿部薫 (as) 佐藤康和 (perc) 1971.10.31 東北大学教養部教室
演奏時間:11’03
価格:Not for sale
製作:(株)徳間ジャパン・コミュニケーションズ

詩人の清水俊彦さん(2007年5月没)の紹介で当時詩誌『ユリイカ』の編集長だった(1975-77年) 小野好恵氏(1996年没)と知り合い、大学の同窓であったり、自宅が同じ中央線だったこともあり急速に近しい関係になった。仕事にかこつけて香港やソウル、果てはNYにまで一緒に足を運んだりした。ある時、そんな小野から阿部薫(1978年9月没)の秘蔵テープのCD化を持ちかけられた。その頃阿部は渋谷のジャズ・カフェ『メアリー・ジェーン』で時たま演奏することがあり小野と連れ立って聴きに出かけていた。僕は同じく『メアリー・ジェーン』で知り合うことになった劇作家で役者でもあった芥正彦氏が1973年にスタジオ録音した阿部のソロ演奏を1980年に二枚組アルバム『彗星パルティータ』としてNadjaレーベルからリリースした。小野はこの『彗星パルティータ』の阿部の素晴らしさを認めつつも自ら所有するカセット録音を公開すべきと考え出していたのだ。『メアリー・ジェーン』での阿部の演奏に苛立ちを覚えていたからだ。僕は、阿部のソロについては、1976年にリリースされた1975年のホール録音『なしくずしの死』(ALM) と『彗星パルティータ』の2作があれば充分と考えていたのだが小野のカセットを聴いて驚き、すぐ公開を手伝うことに同意したのだった。結果として小野が1971年に東北大学と秋田大学でプロデュースしたコンサートと一関のベイシーでの演奏を『アカシアの雨がやむとき』『風に吹かれて』『暗い日曜日』として1997年三枚のCDとして公開したのだった。関係者の誰もがCDの完成を待たずして逝ってしまった小野への追悼の思いを込めていた。
この8cmミニCDは、その時、プレミアとして制作したもので、CD『アカシアの雨がやむとき』には収録されていない<恋人よ我に帰れ>の別バージョン。 阿部薫と小野好恵の関係、三枚のCDに収録された演奏の経緯については、CD化に尽力したひとりで、小野の旧友の大場周治さんのエッセイに詳しい;
http://userweb.www.fsinet.or.jp/bonchan/riderhouse/jazz/abekaoru.htm

じつは、僕が関わった阿部のアルバムはもう1枚『スタジオ・セッション 1976.3.12 〜 The Documentary of Solo Improvisation』というのがあるのだが、この録音は長らくおクラにしてあった。それが阿部のためでもあり、僕自身のためでもあったのだが、16年後の1992年、存在を知ったあるディレクターが公開を懇願してきた。それが何度も続き、ディレクターの熱心さに負けた僕は、作品としてではなく、ドキュメンタリーとして公開すると言う条件付きで許可することにした。演奏している阿部はもちろん、解説を書いている小野さんもすでにいない。僕は未だにこの音源に耳を傾ける勇気を持たない。
このアルバムについてうまくまとめているエッセイをネットで見つけた。このエッセイを読んでいただければ僕が言わんとしていることをわかっていただけると思う。
https://ameblo.jp/memeren3/entry-12265362233.html

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください