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Gallery~No. 201

#20 黒田征太郎「鳩」(パステル画)1995年

text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌

黒田征太郎(1939年大阪市生まれ)は行動力のあるイラストレータ/グラフィック・デザイナーである。ボランティア団体「がんばれ神戸!元気村」のスターン草島(現山形県議草島進一)から声をかけられ、阪神・淡路大震災のチャリティ活動に参加したとき、岡山の小学校で行われた絵画展に駆けつけ画仙紙にパステルで鳩の絵を描きつけ即売に付した。1点数千円だったと記憶するが、描いても描いても希望者が後を絶たなかった。ぼくが手に入れたのは、A2版サイズの画仙紙に5羽の鳩が赤、緑、藍、青、黄の5色のパステルで描かれたもの。黒田さんはものの数分でそれらをさっさと描き付けていった。保管が悪かったせいで小さな染みが浮き出ているのが残念だが当時の思い出とともにぼくの愛蔵品のひとつなっている。この絵画展は長野県美麻村で廃校を活用して「遊学舎」という文化活動の拠点を主宰していた吉田比登志さんが企画したもので、 吉田さんの岳父は版画家だったのでその縁で黒田さんが登場したのかも知れない。
じつは黒田さんとはそれ以前にも何度か仕事をしたことがあり、一番強い記憶として残っているのは、パルテノン多摩のフェスティバルでのサムルノリとの共演である。あの韓国の4人の勇者が打ち出す強力なリズムを得て、黒田さんはホリゾントにしつらえた巨大な画布に素手で絵の具を塗り付けアブストラクトを描いていった。演目が変わると、一度完成したかに見えた絵の上にまた絵の具を塗り付け、新たなアブストラクトを描き出してみせた。
この愛らしい5羽の鳩を見ながら、あのときの黒田征太郎の奔出する情念を思い出している。(稲岡邦弥)


初出:Jazz Tokyo #158    (2011.5.15)

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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