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InterviewsNo. 275

Interview #218 pianist 坂田尚子

photo above by ©Gianluca Grasselli

坂田尚子 Naoko Sakata pianist
ピアニスト・作曲家。1983年8月15日奈良県生まれ。スウェーデン在住。
ソロピアノによる完全即興演奏は、陰影の深い抒情性を纏ったメロディと直感的かつ的確なダイナミズムを兼ね備え、日本人でありながら「スウェーデン・ジャズを代表するピアニスト」と称される。
2008年、スウェーデン・イエテボリ国立音楽大学即興科に入学。
在学中から自身のピアノトリオで活動。スウェーデン国営ラジオ新人賞やスAlice Babs賞など数多くの賞を受賞。北欧、ヨーロッパ、アフリカなど数々のジャズ・フェスティバルに出演。トリオ編成による3枚のアルバム(『Kaleidoscope』[2010年 澤野工房]、『Flower clouds』[2013年 澤野工房]、『Dreaming tree』[2016年 Footprint Records])はいずれも高い評価を得ている。
2020年、現在の演奏スタイルに繋がる、初のソロピアノ・アルバム『Inner Planets』をリリース。2021 年3月、スウェーデンの歴史的な教会でレコーディングされた完全即興によるセカンド・ソロピアノ・アルバム『Dancing Spirits』をPomperipossa Recordsよりゴールドのアナログ・レコード、CD、配信でリリース予定。

Interviewed by Kenny Inaoka 稲岡邦彌 via emails, February 2021

Part 1

 

Dancing Spirits

 

最新作『Dancing Spirits』はソロ・ピアノの完全即興

Jazz Tokyo:現在はどちらにお住まいですか?

坂田:スウェーデン、イエテボリに住んでいます。

JT:コロナ禍の状況はいかがですか?

坂田:外出などは皆していますが、コンサートは行われていません。

JT:コロナ・パンデミックは1年以上続いていると思いますが、ご自身のニュー・ノーマル(新しい日常)は確立されましたか?

坂田:そうですね。コンサートがほぼ無いという状況は特殊ですが、コロナの始まった時期から少し経った時から今制作中のアルバムのことで動き始めたので、コロナ中はアルバム制作に関することをしていました。あとは、コンサートの代わりに今は少しピアノ・レッスンもしています。

JT:差し支えない範囲で標準的な1日のご様子は?

坂田:日によって違います。家でゆっくりしたり、人と会ったり、ピアノを弾いたり、近くの森の中を散歩したりですね。最近は今回のアルバム制作に関することをよくしています。

JT:昨秋と今春の日本ツアーの予定がキャンセルになりました。

坂田:はい。残念でした。

JT:そんな中でのソロ・アルバムの録音、リリースですが、どんな思いが込められていますか?

坂田:全世界的にコンサートができないこの様な状況でこんなに素晴らしくて、安心して楽しくいられる人たちと一緒に仕事をさせてもらえて、この作品を出せることがとても嬉しいです。ありがたいなぁと思います。

JT:意識の流れに沿って録音されたものでしょうか?それとも曲ごとに異なる感興で演奏されたものでしょうか?

坂田:その時の自分の内から湧き上がってくる音をそのまま弾くという風に弾いています。その場所や瞬間のエネルギーと自分の感情やエネルギーをひとつにして、音と一緒にその場にいるという感じです。

JT:パーカッシヴな音が近接音で収録され、ピアノの音像は比較的大きいのですがどのような環境で録音されましたか?

坂田:とても大きな教会で録音しました。Filip Leyman というとても親しい友人で、素晴らしいサウンド・エンジニアの方が録音してくれました。録音を始める前に音を確認し、マイクの位置などを私の理想の音になるように色々と試してくれました。

JT:今回は新しいレベール pomperipossa ですね。

坂田:はい。とてもオープンな音楽をリリースしているレーベルです。とても親しい友人、アーティストのAnna von Haussfolff のレーベルです。このレーベルからリリースさせてもらえるのがとても嬉しいです。

JT:アメリカとは違いヨーロッパはまだCDの流通が主流だと思いますが、流通メディアはフィジカルが主体ですか?

坂田:デジタルが主体です。CDはコンサートの時だけ買う人が多いのですが、レコードはとても人気で、Annaのレーベルでは、レコードのみ取り扱っています。とてもこだわりのある、アート作品の様なデザインで作品が作られていて、そういう作品を買いたい人たちにとても人気のようです。今回の私の作品も、カバー写真はアナログ写真だったり、裏面には私の名前がカタカナで書いてあったり、Annaのアイデアで、こだわりがたくさんあります。

♬ Improvisation 3

 

Part 2:

2007年にスウェーデンのイエテボリに移住

JazzTokyo:スウェーデンを選ばれたのはいつ、どのような理由ですか?

坂田:2007年ごろですね。スウェーデンのジャズやインプロビゼーションの音楽を聴いて自分の感覚と近いと感じたからです。

日本のジャズシーンでは、うまく馴染めなくて、私の演奏がジャズかジャズでないかと言われることが多かったのです。私がいちばん自然に音を出せるのはその時に自分の内にある音を出すことで、それは、考えより何より先に一瞬で起こる事なのです。これがジャズかどうか考えては弾けないし、自分に素直にできる感じがあまりなく、そういう時に北欧のジャズは自分と近いと感じて、行ってみました。

JT:移住してすぐにスウェーデン・イエテボリ国立音楽大学即興科に入学されたのですか?

坂田:先ず入学試験を受けて、受かったので、留学しました。

JT:在学中からピアノ・トリオで活躍されていたようですが、どのような音楽を演奏されていましたか?

坂田:オリジナルの曲を出発点としてほとんど即興という形で演奏していました。

JT:各地のジャズ・フェスにも出演されていたのですか?

坂田:北欧をはじめ、ヨーロッパやアフリカなど様々なジャズ・フェスティバルで演奏しました。

JT:評価も高かったようですね。

坂田:賞をいただいたり、いろいろな機会をいただくことが多かったですね。

JT:日本の澤野工房からトリオ・アルバムを2枚リリースされていますが、このトリオは学生時代から続いているのですか?

坂田:はい。入学したての一年生の時に、先生方から、今年のイエテボリ大学即興科の代表として、NaokoにYoung Nordic Jazz Cometsに出て欲しいからすぐに学校の誰かとバンドを組んで出てくれる?というオファーをもらいました。それから急いで当時3年生だったJohanとAntonに頼みました。そこからスウェーデン代表に選ばれ、北欧全体の大会ではベスト・ソロイスト賞をいただきました。そこからそのトリオでの活動が始まりました。

JT:メンバーを変えて3枚目のトリオ・アルバムがFootprintから。

坂田:はい。ベースのアントンが、音楽ではない道に進むということを決意したので、ベーシストのアルフレッドに新しく入ってもらいました。

JT:そして、昨年初めてのソロ・アルバムが。これは何か心境の変化が。

坂田:2017年にトリオを解散しました。

これは、私が一度立ち止まって自分は音楽をしたいのかを自分に問いたかったというのがあります。前述のように急に頼まれて組んだトリオでもあったのですが、とても学ぶことがすごくあったし、このトリオで活動できたことにすごく感謝しています。しかし、一度まっさらに戻してみたいという気持がすごく強くなったので、解散をしました。そこから少し演奏活動を休止して、自分にとって自然に表現できる完全即興のソロで演奏したいという気持が強くなったので、ソロで演奏を再開し、アルバムも作りました。

JT:youtubeにミュンヘン在住のドラマー、福盛進也とのデュオとトリオの演奏が上がっていますが、福盛さんとはどのような活動を?

坂田:進也くんとは2019年にイエテボリで一度一緒に演奏して、その年の夏に即興でのデュオのツアーを日本で行いました。

JT:福盛さんの音楽性について。

坂田:一緒に音を出しているとすごく音が広がる感じがします。とても自由に音楽を一緒にできるし、ドラムの音がとても素敵で、一緒に演奏するのはとても楽しいです。

Part 3:

幼少の頃より絶対音感でピアノを弾いていた

JazzTokyo:お生まれは?

坂田:奈良県です。

JT:音楽的環境に恵まれた家庭でしたか?

坂田:母がピアノを教えていたので、生まれた時から音楽がありました。

JT:音楽に興味を持ち始めたのはいつ頃、どんな音楽に?

坂田:興味を持ち始めたということがなかったですね。言葉を覚えるより先に音が近くにあったし、絶対音感があったので、聴いたものを真似て弾いていました。自分にとってはとても自然なことでした。

JT:日本では専門学校で専門教育を受けましたか?

坂田:はい。ヤマハ音楽院でジャズを学びました。絶対音感で弾いていたので、理論などに変換するのが全然できませんでした。理論を使おうとすると考えてしまうので時間がかかってしまい、また、コードに変換するのも考える必要があるし、聴感ではこのハーモニーってすぐわかるのに、理論ではどうしてこんなに難しいシステムなんだろうと思っていました。たとえば、会話はすぐ話せるのに、違うシステムの表を見て変換してから話すような感じで、すごく複雑だなあと思っていました。理論を理解して演奏している他の人たちがすごく賢く見えて、自分はなんだか原始人みたいやなぁと、ちょっとしたコンプレックスに最近までとらわれていました。

JT:ジャズに興味を持ち始めたきっかけは?

坂田:映画、『海の上のピアニスト』を見た時です。主人公のピアニストが自由に色々真似したり即興したりするのを見て、自分に近く感じて、この音楽なら自由にできそうだなと思いました。ジャズのサウンドも好きでした。幼少の頃からダンスをしていて、小学生の頃から聞いていた音楽は2Pacなどのヒップホップが多かったので、ジャズは馴染みやすく感じました。

JT:渡欧前の日本での活動は?

坂田:関西で活動されていたオープンな考えのジャズ・ミュージシャンの方々と一緒に演奏したりしていました。

JT:とくに好きなピアニストやアルバム、影響を受けた演奏家はいますか?

坂田:Bobo Stensonは日本にいる頃よく聞いていました。

JT:趣味は何ですか?

坂田:かぎ針編み、ダンス、本を読む、天体のエネルギーをチェックしたりするのも好きです。天気予報のように見ています。

JT:夢を語ってください。

坂田:夢は、いつも自分に素直にリラックスしてピアノで音楽を奏でて、音楽を通して沢山の方とつながれると嬉しいです。あとは、今回の録音で演奏したスタインウェイのグランドピアノが今まで演奏したピアノの中でいちばん好きになったので、いつか同じピアノが欲しいと思っています。

photo©Anna von Hausswolff

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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