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Jazz and Far Beyond

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InterviewsNo. 271

Interview #213 眞壁えみ (SSW&三味線)

眞壁えみ(Emi Makabe)
作詞・作曲・歌・三味線
千葉県市川市行徳出身。日本の大学で英米文学を修得の後、2008年渡米、NYシティ・カレッジでジャズ・パフォーマンスを学ぶ。2015年から本格的な演奏活動を開始、2020年10月、パートナーのベース奏者トーマス・モーガンを加えたカルテットでデビューCD『Anniversary』をデイブ・ダグラスのレーベル GreenLeafからリリース(国内版はBSMFから11/20の予定)。

Interviewed by Kenny Inaoka via e-mails, October 2020.


Part 1:
このアルバムが聞いた人の 力に少しでもなれたらこれ以上の喜びはない

JazzTokyo:デビュー・アルバムの完成おめでとうございます。アルバム・タイトルの「 Anniversary」は特別な意味がありますか?

眞壁 :ありがとうございます。アルバム・タイトル『アニヴァーサリー』 (記念日という意味) には二つの意味があります。一つは「アニヴァーサリー」というトーマ ス(モーガン)のために書いた曲からきており、作ったその日が二人の記念日だったのでタイトルにしまし た。とても大切な曲です。もう一つの意味はこのアルバムのレコーディングをした時がちょう ど日本からニューヨークへ来て10年目の記念の年でした。このアルバムはこの10年間の反映で す。ニューヨークで学んだことや出会った人々、影響を与えられたもの、支えてくれたミュー ジシャンや友人たちのおかげでできたものです。その意味も込めてアルバムのタイトルを『ア ニヴァーサリー』にしました。このアルバムを感謝を込めて、支えてくれた両親、家族、友人 そして師匠に捧げたいです。

JT :このアルバムの構想はいつ頃できたのでしょうか?

眞壁 :大学を終えた2015年から音楽家として活動しました。一年後の2016年位からアルバムを 作りたいと考えていました。

JT:楽曲は長い間にわたって書かれたようですね?

眞壁 :はい、ほとんどが2015年から2018年の間に書かれたものだと記憶してます。

JT:ヴォイスについては、ECMからアルバムが出ているティオ・ブレックマンの影響があるよう ですが、テオとの関わりについて教えてください

眞壁 :ティオは私の大学院での歌の先生です。大好きな歌手だったので、彼のレッスンが取れ ると分かった時はとても嬉しかったです。アレンジメントや作曲法を習えるのかと思ったので すが、彼からは歌の発声やテクニックを徹底的に習いました。

JT :オープナーの<Treeing>は何処かの国の言葉のようにも聴こえますが、何処の国の言葉で もないのですね。

眞壁 :言葉ではないです。ヴォーカリーズです。

JT :詩についてはウィリアム・ブレイク (1757~1827) の影響があるようですが、どのような影 響を受けましたか?

眞壁 :日本の大学で、英米文学を勉強している時に ウィリアム・ブレイク の作品を知りしまし た。読むたびに違う世界が見えますし、その可能性を持つブレイクの作品が大好きになりまし た。ブレイクの詩や絵からはいつも想像力を掻き立てられます。

「Chimney Sweeper」 はブレイクの詩に音楽をつけた三作目になります。彼の詩に音楽をつけ るのが一つのプロジェクトになっています。どういうわけか、彼の詩には何かとても近いもの 感じます。メロディをなんとなく歌ってた時にこの詩が当てはまると気がつき、曲にしまし た。

JT :音楽的には、書き譜の部分とインプロの部分があるようですが。

眞壁 :その通りです。「Flash」と「 “I Saw The Light」以外の曲にはソロのスペースがありま す。

JT :共演者について簡単に紹介願います。ベースのトーマス・モーガンはECMの諸作でおなじ みですが。

眞壁 :ヴィトール(p)とはシティカレッジで出会い、学生時代から一緒に演奏しているため彼 は私の音楽をよく知っています。ブラジル出身の彼はとにかくリズム感と譜面に強く、その中に 繊細さを兼ね備えた素晴らしいピア二ストです。またアコーディオン奏者としても必聴です。

ケニー(dr)は私の大好きなドラマーで、歌い手にとってはまさに理想的なドラマーです。彼 の音はとにかく綺麗で、声にそって音を出してくれます。また多才で、ポップ、ロック、ジャ ス、といかなるジャンルも素晴らしく演奏してくれます。ドラムのみならずヴァイブラフォンも弾けます。「Mielcke(ミルケ)」の中ではケニーが演奏するヴァイブラフォンとヴィトー ルのアコーディオンの素晴らしいコンビネーションを聞かせてくれてます。

トーマス(b)もケニーと同様で難解なリズムや音楽もやすやすと演奏できます。それだけでは なく、ニューヨークで活躍するジャズドラマーのダン・ワイス (Dan Weiss) がトーマスのこ とを “ロック” と呼ぶように、リズムを岩のように堅く強く打ち立ててくれるので 決してリズム がブレません。彼に寄りかかっていれば安心して音楽が進むようなものです。また彼のベース の音はその強さの中に繊細な美しさと温かさを持ち合わせます。とても特別なベーシストで す。

バンドメンバーは決して単なる伴奏者ではなく、私の曲には即興演奏が多様に含まれており、4人で一緒に音楽を作り上げています。彼らはお互いをよく聞き合い、その時その瞬間にベストな演奏をしてくれます。このような素晴らしメンバー達とアルバムを作れたことが本当に嬉しいです。

JT :録音は主にどこで、どれくらいの期間かかりましたか?

眞壁 :みんなで録音したのは1日で、場所はBrooklyn Recording でエンジニアはAndy Turbで す。

JT :デイヴ・ダグラスのレーベルからリリースされる経緯について説明願います。

眞壁 :今年の初め、マスタリング以外が完成して、レーベルを探そうとした矢先にコロナが深刻化しました。レーベルを探すには最悪の状況だとは思いましたが、やるだけやろうと、いろ んなレーベルからCDを出してきた経験のあるミュージシャンの友人に相談したところ、彼にグ リーンリーフを強く勧められました。なぜならグリーンリーフは他のレーベルのように新しい アルバムをたくさん出すようなことはせずに、アーティスト一人一人を大事にするから、と。 そう聞いて、今までDaveとは一切面識もありませんでしたが、グリーンリーフに音源をのせてメールしてみました。そしたらありがたいことにDaveがから返送がきて、リリースすることが すぐに決まりました。とても幸運だったと思います。 実際グリーンリーフのチームはアットホームで皆すごく良い人たちが働いています。アーティ ストを尊重してくれるレーベルです。グリーンリーフからデビューアルバムを出せて本当に良 かったと思っています。感謝でいっぱいです。

JT :眞壁さんは、作詞・作曲・ヴォーカル、三味線を担当されていますが、このアルバムは眞壁さんのセルフ・プロデュースと考えてよろしいですね。どういうリスナーにどういう楽しみ 方をしてもらいたいですか?

眞壁 :はい、これは自分のセルフ・プロデュース作品です。 いろんな人達、様々な年代の人達に聞いてもらえたら嬉しいです。このアルバムが聞いた人の 力に少しでもなれたらこれ以上の喜びはないです。

Part 2:
今アメリカは本当に危機に直面していると肌で感じます

JT :プロとしてのデビューはいつでしょうか?

眞壁 :どれをプロ・デビューと定義するのかわからないのでお答えするのが難しいですが。 学生の時から演奏の仕事はしていましたが、学校を卒業して自分の音楽活動をしだした2015年以降からだと思います。

JT :通常どういうセッティングで演奏されていますか?

眞壁 :通常はジャズ・カルテットで演奏します。自分の歌と三味線、ピアノ、ベース、ドラムス です。

JT :アメリカ国内ではどのような場所で演奏されていますか?

眞壁 : 55バーやロックウッドミュージックホール、セイントピーターチャーチや今はなき コーネリアストリートカフェでよく演奏しました。

JT :国外ではどうでしょう?

眞壁 :デンマークのコペンハーゲン・フェスティバルに2018年参加させてもらいました。 日本でも昨年帰ってきた時に渋谷公園通りクラシクスで演奏させてもらいました。

JT :トーマス・モーガンとの出会いは?

眞壁 :トーマスとは55バーで出会いました。彼がデイブ・ビニーのバンドで演奏していた時、 友人のマリアがトーマスと仲が良かったので私に紹介してくれました。 55バーは思い出深い大好きなベニューです。

JT :菊地雅章のトリオにトーマス・モーガンと参加していたギターのトッド・ニューフェルド のパートナーも日本人でしたね。

眞壁 :はい、レマさんも日本人です。

JT :眞壁さんは菊地雅章のトリオの音楽にも接していましたか?

眞壁 :プーさんのことはトーマスを通じて知りました。彼のポール・モチアンとゲイリー・ ピーコックのトリオ・アルバムはとても好きです。アルバム『Sunrise』も本当に素晴らしいと思い ます。

JT :コロナ・パンデミック中は行動が極端に制限されていると思いますが、その間どのような 生活をされているのでしょう?

眞壁 :デビュー・アルバムのリリースが5月の初めに決まってからは、リリースのために毎日忙 しくしています。パンデミックになってから仕事も激減し、友人にも会えませんし外にもあまり 行けませんが、リリース準備のために時間が取れたことは良かったです。

JT :先日、ピアニストの海野雅威さんがNYの地下鉄で暴漢に襲われ鎖骨を折るなど大怪我しま した。一説によるとアジア人に対する差別が原因ともいわれていますが、どのように受け止め られていますか?

眞壁 :海野さんは私も知っていますし、聞いた時は信じられないくらいショックでした。 今アメリカは本当に危機に直面していると肌で感じます。何が正しくて何が悪いのか、正しい 見解や判断ができにくくなっているように思います。コロナの解決が見えないアメリカでは誰もが先の見えない未来へ不安を覚え、自由のきかない日々、仕事のできない日々にストレスを抱えています。このように精神的に大きなストレスや不安をかかえる中で、追い討ちをかけるかのようにアメリカのリーダーは非難と憎悪を植え付けるような発言をしています。彼はコロナを中国の責任と強く非難し、その発言を何度も何度も聞かされれば、国民の中の意識にもその思想が入り込み、そして無意識的にも中国への憎悪が増していくでしょう。中国人も日本人も韓国人もこちらの人には判断ができませんし、アジア人はアジア人です。彼の発言がヘイトクライムの原因になってることは間違いないと思います。とても悲しいです。アメリカが悪い方向へと向かっている気がして仕方がないです。日本人やアジア人の友人とは夜は出歩かないように、人気の無いところにはいかにようにとお互いに注意しあっています。

JT:このカルテットでの日本公演も予定されていますか?

眞壁 :ぜひしたいです! ただコロナが解決してツアーができる環境にならない限りは無理です が。

Part 3:
バンドメンバーで世界中をツアーで回るのが夢です

JT:お生まれはどちらでしょうか?

眞壁 :生まれも育ちも千葉県市川市の行徳です。

JT :音楽家のご家庭でしたか?

眞壁 :母が小学校の音楽の教師です。

JT :音楽に興味を持ち始めたのはいつ頃、どんな音楽でしたか?

眞壁 :私は小さい頃から母がよく民謡などを歌っていて、一緒に歌っていました。母の歌声が すごく好きで自然と歌うことや音楽が好きになっていきました。小さい頃はアメリカのミュー ジカル『サウンド・オブ・ミュージック』を何度も何度も飽きずに聞いていたそうです。今でもリ チャード・ロジャーズは大好きな作曲家です。 中学生まではポップスやクラシックを、高校生からはパンクやロック、フォークミュージック に陶酔しジャズも聞くようになりました。

JT :楽器は何をいつ頃から始められましたか?

眞壁 :ピアノは4歳から、11 歳の時に合唱団に入りました。フルートは中学生の時、吹奏楽部 に入ってからはじめました。琴や三味線、ギターは高校生の時に習いました。

JT :専門の教育は?

眞壁 :日本の大学では英米文学を専攻しました。アメリカでは大学と大学院でジャズ・パフォー マンスを専攻しました。

JT:渡米はいつ、どのような目的で?

眞壁 :2008年にアメリカの大学でジャズを学ぶために渡米しました。

JT ジャズはいつ頃、どんなジャズを聴き始めましたか?

眞壁 :高校を卒業してからジャズやブラジル音楽をよく聴きました。最初はエラ・フィッツジェラルド、サラ・ヴォーン、ビリー・ホリデーをよく聴きました。

JT:好きなジャズ・ミュージシャン、影響を受けたジャズ・ミュージシャンは?

眞壁 :歌手ではビリー・ホリデー、ベティー・カーター、メーベル・マーサー(Mabel Mercer) 、ミルドレッド・ベイリー(Mildred Bailey) がすごく好きです。影響を受けたミュージシャンは いっぱいて数えきれないですが、トーマス・モーガンは間違いないです。ティオ・ブラックマ ンやトーマスが一緒に演奏するミュージシャン、ポール・モチアンやビル・フリゼールからも 影響は受けています。

JT :NYに居住することの意味、意義についてはどうお考えですか。

眞壁 :ニューヨークでの音楽のスタイルが好きです。音楽が常に身近にあること、みんな駅や外どこでも演奏してて、自分のしたいように自由に表現し、聞く側も自由に自分が良いと思った音楽を選択していて、様々な価値観や、異なった要素が入り混じって表現できること、 違ったものを受け入れる風潮があること、そういうところにとても感銘を受けました。こうい う中で音楽をやることに居心地の良さを感じます。あとはニューヨークには本当にすごいジャ ズ・ミュージシャンがたくさんいるので、一緒に演奏して学ばせてもらえることがとても多いで す。

JT :最後に夢をお聞かせください。

眞壁 :アルバム『アニヴァーサリー』のバンドメンバーで日本をはじめヨーロッパや北米、南 米など世界中をツアーで回ることです。


稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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