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No. 215R.I.P. ポール・ブレイ

Yoshihisa Saito / 斎藤嘉久

謎に満ちたポール・ブレイの音楽

1999年6月、23年ぶりの来日公演を行ったポール・ブレイ。滞在中には、いくつか雑誌の取材にも応じた。その合間に、今は無き六本木WAVEの裏手にあった小さな喫茶店に彼と一緒に入った。

最初は招聘元の稲岡邦弥さんもいらしたのだが、稲岡さんはしばらくすると「ちょっと用事がある」と言って店外に出て行ってしまった。二人きりになり、当時27歳の若造ディレクターだった私の緊張度は一気に増す。しばしの沈黙。それを切り崩したのはポールからの質問だった。

「自分がどうしても好きになれない作品を担当しなければならないとき、君ならどうする?」

ドキっとした。普通なら訊きにくいこと、特にミュージシャンからはまず尋ねられることはない質問を、ストレートにぶつけてきたのだから。

「作品を繰り返し聴いて、その音楽の良さを見つけるようにします」

ポールはすぐさま切り返す。
「そうやっても、どうしても好きになれない場合は?」

え、まだ突っ込んでくるのか。私はすっかり動揺してしまった。そして、少しムキになって答えた。
「私は音楽が好きです。どんな音楽でもどこかしらに良さを見つけられると信じています」

今思えば、なんとも青臭い回答をしてしまった。ポールも私の底の浅さを感じたのか、その質問はそこでおしまいとなった。
たかだか数分のやり取りだけれど、私の心にくっきりと刻まれた体験となった。以降も、自分の仕事について考えるとき、この思い出が頭をよぎることがある。

私にとって、ポール・ブレイの音楽はいまだに多くの謎に満ちている。と同時に、いつも心の奥にストレートに突き刺さってくる。その二面性を、この喫茶店での会話からも感じていただけるのではないかと思う。(レコード会社ディレクター)


Yoshihisa Saito / 斎藤嘉久。
レコード会社ディレクター。

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