Nana meets Akiko Yano 上原 基章
パット・メセニー、ミルトン・ナシメント、ガトー・バルビエリ、トーキンク・ヘッズ、ブライアン・イーノ、坂本龍一、アート・リンゼイ、ポール・サイモン、ジョン・ルーリー、デヴィッド・バーン、エグベルト・ジスモンチ、そしてドン・チェリー&コリン・ウォルコットと結成したユニットCODONA…。ナナの輝かしいキャリアを挙げていったらキリはない。78年録音のジョージ大塚『マラカイボ・コーンボーン』:ジョージ大塚(ds)、ジョン・アバンクロンビー(gt)、リッチー・バイラーク(pf)、スティーヴ・グロスマン(ss)、ミロスラフ・ヴィトウス(b)、ナナ・ヴァスコンセロス(perc)、増尾好秋(gt)、菊地雅章(key)に関しては他の投稿に譲るとして、極私的な想い出を少しだけ書かせてください。
『Tokyo Music Joy ’91 / 矢野顕子 with ビル・フリゼール、ナナ・ヴァスコンセロス』。往時「Live Under The Sky」と並んで私たちに音楽の「喜び」と「驚き」を体験させてくれたフェスティバル「Tokyo Music Joy」。そのラインナップの中でも一際異彩を放っていたのが、この公演だった。1991年7月11日、昭和女子大人見記念講堂に詰めかけた観客は、誰しもがこれから目の前で創造される刺激的な空間への大きな期待感と不思議な緊張感を漂わせていた。それは3人の演奏が始まるやいなや、文字通り「音楽の歓び」へと昇華していったのだった。
かつて平岡正明氏は「山口百恵は菩薩である」と喝破したが、その線で言えば矢野顕子はまさしく「巫女=シャーマン」である。生粋の矢野ファンであれば、誰しも彼女がステージの上で歌の「言霊」を現出させる瞬間を目の当たりした体験があるが、この日のステージはその白眉だった。下手に矢野顕子、センターにナナ、上手にビル。3人の紡ぎだしていく音がタペストリーとなって、ゆっくりとたおやかにホール全体を包んでいく。それはまるで平等院の雲中供養菩薩の奏でる極楽浄土の調べのように、この上ない「至福の時」そのものだった。ふと思い返してみれば、その空間に通底していた「ゆらぎ」こそ、ナナが醸し出す繊細なパーカッションであり、暖かいヴォイスだった。
この稿を書くために資料を検索していたら、YouTubeに公式収録した映像全曲分がアップされていることを発見。四半世紀ぶりに曲順通りに見直してみて、年季の入った矢野ファンとしてのベスト・コンサートの一つという記憶が正解だったこと、そして、私にとってのナナのベスト・パフォーマンスでもあったことを再確認した。本ステージ最後の曲となった「Angler’s Summer」演奏前のMCで、アッコさんが感激の涙をぬぐう瞬間がある。この日の客席が3人のステージに出会えた幸せに満ち溢れていたように、きっと彼女自身もナナの音に包まれながらピアノを弾いて幸せだったのだろう。
あらためて、胸が熱くなったーーー。
『Tokyo Music Joy ‘91』
〜矢野顕子with ビル・フリゼール、ナナ・ヴァスコンセロス〜
1991 年07月11日 於:昭和女子大学人見記念講堂
01. Highland
02. Drop Me A Line
03. Bill’s Solo
04. Walk On By
05. Hard Times
06. 終わりの季節
07. 釣りに行こう
08. いもむしごろごろ(ピアノソロ)
09. It’s for you ※Pat Metheny作曲
10. 100miles
11. Hello There
12. Angler’s Summer ※このセッションの為の書き下ろし
アンコール Watching You
*YouTubeで「矢野顕子 Bill Nana」と検索すると見つけられます。1つでも2つでも見ていただければ、「極楽浄土」だの「至福の時」だのという言葉が決して大袈裟でないことを感じ取ってもらえることでしょう。