#03 『Cubic Zero / Flying Umishida』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Cubic Zero / Flying Umishida (Nonoya Records)
吉田野乃子 (sax)
本山禎朗 (keyboard)
佐々木伸彦 (guitar)
大久保太郎 (bass)
渋谷徹 (drums)
- Iwai
- もぐった先
- Block of Noise
- 永遠の苺 ~椅子とポルタが~
- Moldy Coffee Lighter
- Seaslug Interlude #1 ~Trapania Naeva~
- Spice 389 (Sabaku)
- Walking Head
- Seaslug Interlude #2 ~Hypselodoris Festiva~
- Flying Umishida
- Seaslug Interlude #3 ~Hypselodoris Kanga~
- Critical
- Setakamui
- Seaslug Interlude #4 ~Thecacera Pacifica~
- 15 Lunatics
Recorded April 2018
自分が名付け親(の一人)になったから、ということもあるし、2018年の1年間に最も多くのライブに接し、最も記憶に残るアルバムである。またメンバー全員が北海道在住ミュージシャンであり、北海道在住コントリビューターとしてはこれを推さないわけにはいかない。もちろん、大変な傑作であることは前提としたうえでだ。
グループ名は、2017年の結成時は「エレクトリック・ヨシダ(仮)」と呼称されていたため、リーダー吉田野乃子の師ジョン・ゾーンの「エレクトリック・マサダ」に範をとったエレクトリックなハードコアジャズでも演奏していくのだとばかり思っていたら、そうではないことがライブを重ねるたびに明らかになっていった。手法としてはインプロもあるし、ジャンクノイズもハンドサインも変(態)拍子もあるが、端的に言えばエレクトリックの衣をまとったジャズグループなのであって、衣をアコースティックに着せ替えれば「トリオ深海ノ窓」になろうし、吉田が独りで演奏すれば『Lotus』になる。本作を含む3作品は「3部作」なのであって、どれも一貫した吉田野乃子のジャズが底流している。
吉田野乃子は、わたしを含む多くの人の前にノイズサックス奏者として現れ、現在もそう自称も他称もされているが、彼女の音は全くノイジーではないし、美しくかっこいい音しかない。本作の「裏解説」によれば、アルバムに収録された彼女のオリジナルは、ジョン・ゾーンや椎名林檎やEW&Fやイーグルスや日野元彦らにインスパイアされているそうであるが、彼女が今まで観た聴いた体験した共演した好きな人たちの音楽を無理なく同居させながら、自らの表現として昇華させている。236号のレビューでも書いたように、彼女はますますその活動を多方面に花開かせようとしており、今後も楽しみは尽きない。また本作は、他のメンバーのテクニシャンぶりにも注目してもらいたい。