#04 リューダス・モツクーナス 4番勝負
text and photos by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
リューダス・モツクーナス (ts,ss)
12/05 浦邉雅祥 (as)
12/06 坂田明 (as,cla) 林栄一 (as)
12/07 纐纈雅代 (as)
12/08 大友良英 (g) 梅津和時 (as, b-cl)
横浜・白楽 Bitches Brew for hipsters only
リューダスから来日の第一報が届いたのは6月下旬だった。2010年の宝示戸亮二(p) とのCD発売記念JAPANツアー、2013年のリトアニア政府派遣によるペトラス・ゲニューシャスとのツアーに続く3度目の来日である。リューダスは「Chap Chapシリース」でコラボしている No Business Recordsのアーチストでもあり、2013年の来日時には東欧スラヴ音楽リサーチセンターの岡島豊樹さんの協力を得て2、3のギグのブッキングをした。今回は、リトアニア独立100周年記念行事の一環として新宿と札幌でライヴ・コンサートを予定しているという。
記念ライヴに1週間先立って来日、梅津和時、大友良英、坂田明を含むインプロ系、エレクトロニクス系、ノイズ系ミュージシャンとできるだけ多くの共演の機会を持ちたいというのがリューダスの希望だった。最短でも4日間のレジデンシーと決め、以前からレジデンシーに積極的な白楽のBitches Brewのオーナー杉田誠一氏に相談を持ちかけ快諾を得ることができた。キュレーションは杉田氏との合議で、リューダスの希望する3人にBitches Brewを本拠地とする浦邉雅祥、生え抜きの纐纈雅代にベテランの林栄一を加えることに決定。リューダスがテナーとソプラノを持参することが確認できたので日本側は大友のギター以外はあえてアルトに絞ることにした。キャスティングは決まったものの、それぞれ年末のスケジュールが公私に多忙でスケジューリングに最後まで苦労した。最終的に日程が確定し、フライヤーが上がってきたのは公演まで1ヶ月を切る11月上旬だった。
苦労した日程だったが結果的には神の配剤としか考えようのない素晴らしい流れが現出した。初日、浦邉の意表を衝くパフォーマンスからスタート、ソロの交換の後のデュオ、最後まで正面からの対決を焦らせ感性に富んだパフォーマンスを繰り出した浦邉が視覚的にも楽しませた。意表を衝かれた感のある
リューダスはバケツに溜めた水とソプラノサックスの交流で対抗した。2日目の坂田と林はデュオ、デュオ、トリオの演奏。パワープレイを中心とした演奏だったが、林の仕掛けたサーキュラーブリージングはバトルとまでは行かなかった。坂田のヴォーカルに林とリューダスがドローンで応じ、ユニゾンになったりハーモニーになったりの微妙な変化が面白かった。3日目の纐纈雅代は新調のシルバーのアルトでまず人目を引いた。ソロ、ソロ、デュオの展開だったが、時に応じて纐纈が繰り出すペンタトニックのフレーズがよく耳に馴染んだ。リューダスのパーカッシヴ・タンギングによるスラッピングをリズムとして捉え纐纈がメロディを吹き出す瞬間があったが、思い切ってメロディを吹いてしまうのも面白かったのではないかと思う。終演後、纐纈がスラッピングの手ほどきを受けていたので、そのうち披露されるかも知れない。最終日、土壇場で梅津の参加が決定し、リューダスが当初から切望していたトリオが実現した。大友はワシントンDCで、梅津はヴィリニュスで耳にして共演を夢見ていたとのこと。ギターが入ったことで世界が大きく開けた。大友は冒頭アブストラクトな演奏も聴かせたが、やがてほぼホリゾンタルな演奏に徹するようになり、直線的なリード楽器の演奏と相まってサウンドスケープが展開されるようになった。4日間で初めての体験だった。梅津の音は相変わらずキレが良く、ミニマル的なフレーズを繰り出してパワープレイのリューダスとコントラストを持たせた。三者がそれぞれのポジションを心得たバランスの取れた演奏で最後を飾るにふさわしい演奏となった。リューダスは4日間を通じ気力、実力ともに充実し切っており胸を借りるつもりの日本勢をインスパイアしつづけ、それに応えた日本勢と素晴らしい演奏を展開した。Bitches Brewという限られた空間で発せられる音圧は想像を絶しており、演奏者に与えた影響も無視できないものがあったと思われる。
12月05日 Liudas Mockunas with Masayoshi Urabe 浦邉雅祥
12月06日 Liudas Mockunas with Sakata Akira 坂田明 and Eiichi Hayashi 林栄一
12月7日 Liudas Mockunas with Masayo Koketsu 纐纈雅代
12月8日 Liudas Mockunas with Yoshihide Otom 大友良英 and Kazutoki Umezu 梅津和時