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R.I.P. ゲイリー・ピーコックNo. 270

In memory of Gary Peacock jazz record producer 伊藤 潔

text by Kiyoshi Ito 伊藤 潔

Gary Peacockが日本にいるらしい、という話をプーさん(菊池雅章)から聞いたのが50年前になります。プーさんは “もし一緒に演奏出来るならやりたいよな”、“潔、探してみたら” というのがきっかけで、都内のライブ・ハウスを中心に情報集めをしていたところ、ある日、新宿ピットインにGaryが現れて、出演者の一人ベースの池田芳夫さんに話しかけ、運よくGaryの連絡先が分かったのです。

私は、1969年に CBSソニー(現SME)に入社してジャズA&Rを始めて間もない頃で、Columbia の新旧ジ ャズ・カタログの発売と共に、渡辺貞夫さんと契約して最初のアルバム『Pastoral』を制作していました。会社も創業したばかりで、何にでもトライ出来る素晴らしいミュージック・カンパニーでしたので、Gary のアルバム制作を提案したら、勿論許可してくれました。

こうしてGaryの最初のアルバム『Eastward』が 1970年2月に、プーさんと村上寛のトリオで川口市民会館(音響が素晴らしいホール、会社にはまだスタジオが無かった)で録音しました。Garyが6曲オリジナルを書き、プーさんの <Little Abi> も入れました。

ジャケット・カバーは、資生堂のスタッフ・デザイナーを辞めてフリーになったばかりの石岡瑛子さんに依頼しました。彼女との最初のミーティングで二人とも Creed Taylor の CTI のデザインが好きなので、このフィーリングで行こうと決めました。これが彼女との長い付き合いの始まりでした。エンジニアの半田健一さんも素晴らしい録音をしてくれ、『Eastward』はひとつのパッケージとして満足出来るものになったと思います。

次作『Voices』は、翌 1971年4月に目黒のスタジオにて、プーさん、富樫雅彦さん、村上寛のカルテットで録音しました。この頃 Gary は京都に住んでいました。全曲彼の新しいオリジナルですが、なかには日本語のタイトルのものもありました。奥さんの名前が Nancy ですが、表記は<Nanshi> にしていました。Garyの曲は、前作よりもさらにスペーシーになっており、“間” を共有できるプーさんとのコラボレーションは益々深くなりました。

このカルテットに貞夫さんが入って、彼のアルバム『Paysages』を同年6月、出来立てのCBSソニー・スタジオで録音しました。

貞夫さんが3曲、Garyとプーさんが1曲づつオリジナルを持ちよって、クールだけどパッションのある作品になったと思います。

Garyは『Eastward』の後、Jack DeJohnetteの『Have You Heard』にも付き合ってくれました。Bennie Maupin、市川秀男が共演です。1978年 ニューヨーク録音で、プーさんの『But Not For Me』にも参加してくれました。共演は、Al Foster、Badal Roy、Alyrio Lima、Azzedin Westonです。Garyは Be-Bop の影響があまり聴こえないベーシストですが、4/4 でスイングする時のグルーブは強力です。また、こんなにスペースを感じられるベーシストは稀だと思います。

Gary Peacockさん、本当に有難うございました。上で、プーさんとのデュオを心ゆくまで深め合ったら、Paul Motian さんにも入ってもらい少しSwingも楽しんで下さい。


伊藤 潔(いとう・きよし)
1946年7月24日名古屋市生まれ。慶応義塾大学卒業後、’69年 CBSソニーに入社。’73年退社までに、渡辺貞夫、菊地雅章、増尾好秋、笠井紀美子、鈴木良雄、Gary Peacockをプロデュース。また、A&Rとして『Miles in Tokyo』, 『Weather Report in Tokyo』, 『Bill Evans in Tokyo』を制作。1975年、鯉沼利成氏の「あいミュージック」に参加、East Windでの内外の活躍を経て EWEレーベルを通じて綾戸智絵をトップセラーに押し上げる。その後、One Voice レーベルでの制作もあり、現在までのプロデュース作品は約200枚。日本を代表するジャズ・プロデューサーとして頂点に立つ。

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