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R.I.P. 近藤等則No. 271

我がフリージャズ体験の原点、近藤等則賛江

Text & Photos by 剛田武 Tekeshi Goda

近藤等則の個人的なイメージは、70年代後半から80年代半ばにかけて、海外を舞台に前衛的なサウンドを追求した<フリージャズ侍>というもの。意志の強そうなキリッとした眉の精悍な顔つきと新体道で鍛え上げた肉体がその印象を裏付けた。80年代前半から海外のフリージャズ・ミュージシャンの招聘を行い、今は無き法政大学学生会館ホールなどでライヴを数多く企画していた。筆者は1982年5月8日(土)日本教育会館一ツ橋ホールでのミシャ・メンゲルベルク&ICPオーケストラの初来日公演と、その前哨戦として5月1日(土)に法政大学学生会館ホールで開催された『今ゼロを越えてゆく』というイベントで、ペーター・ブロッツマン×近藤等則×豊住芳三郎の共演を観た。物干竿のように長い竹の棒で床を叩きながら登場した近藤のパフォーマンスに驚愕したのを覚えている。超満員だったICPオーケストラは、それまでレコードでフリージャズやインプロを聴いていて、シリアスで冷徹な世界こそ「前衛」であると信じていた筆者の思い込みを完膚なきまでぶち壊す衝(笑)撃的な演奏だった。テクニックや音のでかさも凄いが何よりも視覚的に面白い。何度も会場が爆笑の渦に巻き込まれた。聴いて楽しく観て楽しい最高のエンターテイメント。「前衛=難解」である必要はないということを実感し目から鱗の体験だった。大学の軽音研でフリージャズ好きが高じて村八分状態だった私に勇気と希望を与えてくれた記念碑的コンサートだった。そして、海外の猛者の向こうを張って孤軍奮闘する近藤の姿が、当時19歳の筆者にとって初めてのリアルなフリージャズ体験として鮮やかに心の中に刻まれている。

しかし80年代後半に近藤等則&IMAとして人気を博していた頃には、筆者の興味が洋楽ロックに移ったために熱心に聴くことはなくなってしまった。90年代後半に世界の大自然の中でエレクトリック・トランペットを吹くプロジェクト『地球を吹く』をテレビで観て、かつての即興の闘士のイメージとはかけ離れた芸能タレントになってしまった気がして、少し寂しい気持ちがしたものだ。

ところが2010年代になってヨーロッパから帰国した近藤のライヴ演奏を目にする機会が増えるとともに、『地球を吹く』が決してテレビ向けの旅紀行企画などではなく、人に向かってだけ演奏することに疑問を覚えた近藤が、大自然を相手にトランペット一本の即興演奏で挑む、いわば<道場破り>のようなものだと知った。テン年代に何回か体験した近藤の演奏は、30年前のフリージャズ体験をアップデートする新たな衝動を与えてくれた。近藤の突然の死にあたって、自分の体験したライヴの感想をブログ記事から抜粋することで、筆者なりの追悼文とさせていただきたい。(敬称略)

2011年5月17日(火) 渋谷WWW
「WWW presents #restart vol.2 東日本大震災復興支援ライブ」
Bill Laswell presents Tokyo Rotation (Bill Laswell / 近藤等則 / DJ KRUSH / 山木秀夫) 
アンビエント風のベースのハーモニクスで始まったステージは、うねるように表情を変え、ヘヴィーなビートにのって激しいトランペットのブロウと切れ味鋭いスクラッチ・プレイが炸裂、さらに怒涛のベース・ソロやドラムの連打が満員の会場に響き渡る。近藤さんのトランペットを生で聴くのは20数年ぶりだったが、当時のストイックなプレイに比べ多彩な音色が宙を舞う演奏が印象的だった。70分強のステージを見終わった若い観客が「凄かったね~」と語り合っているのがこの日のライヴの凄さを象徴してした。

2014年1月21日(火)新宿Pit Inn
本田珠也 SESSION
本田珠也(Ds)近藤等則(Electric Tp)灰野敬二(G,Vo)ナスノミツル(B)
エアシンセから始まり、宙を舞うトランペットがリードする展開からハードコアな四つ巴の鬩ぎ合いへと突き進む。渦巻くサウンドの嵐の中で灰野が「たった一度しかない今という宝物~」と歌った瞬間に四人のスピリチュアル・ユニティが完成した。哀愁のトランペットのアンコールを含み60分の旅路の果てから生還した四人の顔は全力を出し切った心地よい疲労感に輝いていた。ジャズでもロックでもなくただひたすら「音楽」というセッション。途轍もなく大きな奇跡を目撃したのではなかろうか。

2014年3月12日(水)六本木SuperDeluxe
SDLX SUPERSESSIONS!
ペーター・ブロッツマン + 近藤等則 + 豊住芳三郎 TRIO
マニ・ノイマイヤー + 八木美知依 DUO
田原坂の戦いの西郷軍による抜刀斬り込み攻撃を思わせる切っ先鋭い音の刃は、「地球を吹く」で聴ける大地を包み込む雄大なサウンドとは別次元。70年代にトランペット一本持って単身海外に渡り道場破りのように現地の即興現場に斬り込んだ武闘派インプロヴァイザーの顔が表に浮き出る。巨体から銃撃するマシンガンタンギングと電気操作で歪み木霊するペット炸裂音が獣の咆哮のように反響し合い、野性のジャングルか砲弾飛び交う戦場へ紛れ込んだかのような錯覚に陥る。

2014年4月18日(金)青山CAY
近藤等則「地球を吹く in Japan」上映会&ライブ
日本の自然は柔らかい音じゃないとコミュニケーション出来ないと言う。しかも季節によって音色を変えなければならない。そんな繊細な日本の自然の力に惹かれて3年に亘り続けた即興演奏の旅の記録がドキュメンタリー映画『地球を吹く in Japan』。時系列的な旅紀行ではなく、幾つかの時間・場面がカット&ペーストされお互いに反響し合い、映画の中では殆ど語られない近藤の心と音楽の動き・変化がじわじわ伝わってくる。プログラムされたリズムや電子音に呼応したトランペット演奏は、かつての刃のようなフリーインプロヴィゼーションとは全く印象は異なるが、山や川や草木との対話による紛うこと無く本当の「即興演奏」である。

2015年4月21日(火)恵比寿LIVE GATE
「響命」シリーズ第四弾 at LIVE GATE TOKYO~Blow your Mind~
【出演者】近藤等則 ( electric trumpet )/ Peter Brotzmann ( sax )/ 中原昌也 ( synthe & effects )
中原のソリッドな電子ノイズと、近藤の浮遊するエレクトリック・トランペットが飛び交うエレクトロの嵐の中で、ブロッツマンが独り屹立する勇猛な風景を幻視したが、ステージ上ではもっと混然一体のアトモスフェアが生またのではなかろうか。それは対峙とか共感とか友愛とか交歓という言葉では表現しえない『未知の創造の場』の現出ではなかったか。

2015年11月29日(日)表参道 Red Bull Studio 東京 Hall
3D Sound Installation Live by 近藤等則
夢 宙 Dream Space
スケールの大きな宇宙サウンドに留まらず、電子ノイズに拮抗するべく細かいタンギングで音の肌理を操作して、音階無き旋律を吐き出すトランペット奏者の心の奥底に棲みついている極端音楽家の魂を解放する。これは単なる立体音響のデモンストレーションではない。音楽家の脳内ヴィジョンを実体武装化することで、人間のイマジネーションを無限に拡張する神の所業への挑戦かもしれない。

2017年4月23日(日)川崎 専修大学生田キャンパス
専修大学文学部哲学科公開講座「哲学とパフォーミングアーツ」第3回 テーマ:「音の哲学に向けて」
ペーター・ブロッツマン(テナーサックス、クラリネット)、ポール・ニールセン・ラブ(ドラムス)、近藤等則(エレクトリック・トランペット)
ブロッツマンの生音に近いブロウと近藤のエレクトリック・トランペットが鬩ぎあう真ん中でふた回り以上若いニルセン・ラヴが、音のスクリーンを粉砕するドラミングの妙を発揮する。1時間あまりのセットは、緩急を繰り返す度に表情を変化させ、アコースティックとエレクトリック、ロングトーンと微分音、破壊と創造、喧嘩と仲直り、聖と俗、超自然と日常、といった形而上・形而下の概念を形成するように思えた。(2020年10月25日記)

剛田武

剛田 武 Takeshi Goda 1962年千葉県船橋市生まれ。東京大学文学部卒。サラリーマンの傍ら「地下ブロガー」として活動する。著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)。ブログ「A Challenge To Fate」、DJイベント「盤魔殿」主宰、即興アンビエントユニット「MOGRE MOGRU」&フリージャズバンド「Cannonball Explosion Ensemble」メンバー。

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