独自でありたいという表現者の矜持 追悼・橋本孝之さん
Text and photos by Akira Saito 齊藤聡
6年ほど前、つまり2015年6月に新宿西口カリヨン橋の上でサックスを吹く白石民夫さんを観に行ったとき、ライターの剛田武さんが橋本さんをご紹介くださった。帰りの丸ノ内線の中で、橋本さんは、初対面の私にサックスソロについて熱く語った。他のプレイヤーと「似たような感じ」ではつまらない、と。翌7月、草月ホールでエヴァン・パーカー(サックス)らを観たあとにも、ビールを飲みながら、ジャズは聴いてこなかったしプレイヤーをほとんど知らないのだと話した。それは独自でありたいという表現者の矜持にも感じられた。
橋本さんは気楽に友人と呼べるほど親しくはなかったけれど、ことあるごとに、こんどこそ昼呑みしましょうよと言いあっていた。もう少しそのあたりを話したかった。
2017年3月に神保町試聴室で内田静男さん(ベース)とのユニットUH(ユー)をはじめて観たときには驚いた。かれのハーモニカは、寒風の中での呻き声、出口を求めて土壁に爪を立てて血だらけの者の声であり、それが寂寥感を残すものだった。またアルトサックスは情を排しながら無機物が人格を持っていくようであり、そのことを書くと橋本さんは喜んでくださった。UHが残した作品『UH』(An’archives、-2018年録音)や『Morgana』(haang riap records、2020年録音)は実際にライヴに立ち会ったような強い印象を残す傑作である。弦を緩めて我が身を投げ出す内田さんの音には、暗闇を手探りで這う強靭さがある。そして、橋本さんの叫びがたいへんな力をもって迫ってくる。