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R.I.P. カーラ・ブレイNo. 308

R.I.P. Carla Bley by 芳垣安洋

ジャズを意識して聴く様になった大学時代、彼女の作品でまず耳にしたのがリアルタイムでリリースされた『ディナー・ミュージック』でした。当時の私の様なあまちゃんに本質がわかる訳でもなく、変わったポップス!ブルースやゴスペルかと思ってたら先が読めない。これが通のきく音楽なの?でした。でも、スティーブ・ガッドをはじめスタジオ界隈やジャズエリアを席巻し始めたスタッフのメンバーが3人も参加してるくらいだから、カーラ・ブレイってきっと凄い人なんだろうなあ、などと思い、彼女の他の作品を調べてみると、ハット・ハットの作品の中にピンク・フロイドのニック・メイソンが参加しているモノやジャック・ブルースの名前を見つけて元ロック小僧はただそれだけで喜んだりしたものです。

あの頃は音楽のことちゃんと分かってなかったのですが、今思うと、彼女の70年代の作品は、様々な音楽のエッセンスや個人の才能を取りまとめ一つの流れの中に消化していくことから生まれるものを音楽にする、と言う、実験的な工程を示しながら、作品を作っていたのじゃないかと思っています。

この歳になって『ディナー・ミュージック』を聴き返してみると、アバンギャルドな部分はあれど、とてもポップに聞こえてくるじゃないですか。なんともカッコイイバンドなんですね。このアルバム、なんか剥き身の刄をオブラートに包むためにスタッフのメンバーを巻き込んだと言う作戦の様にも思えてきました。そのポップに対比するジャズ的要素とメロディーの部分はフリージャズの界隈で名を馳せていたトロンボーンのラズウェル・ラッドが一手に引き受けています。なんとも面白い組み合わせなんですね。

彼女の作品で次にリアルタイムに意識したのが、あの名盤『Live!』でした。これはアルバムだけでなく当時レーザーディクスなども出て映像も見ることができたので、まあガツンとハマりましたね。ラッドに代わりフィーチュアされる様になったゲイリー・バレンテのトロンボーンが強烈な印象で、私はユニークな曲とサウンドの虜になり、これ以降どうしようもなくカーラのファンになってしまい、今日に至る訳です。

先にも書きましたが、カーラの集めるメンバーはいわゆるビ・バップ、メインストリームの本流とは違うところにいるミュージシャンを多く含んでいました。選ばれた彼らの特徴は、独自の素晴らしいいい音色を持っていることだったと思います。

オーケストラを含む彼女自身のユニットだけでなく、彼女がアレンジを担当し大きな影響力を持っていたチャーリー・ヘイデンのリベレーション・ミュージック・オーケストラなどでも、ヨーロッパのミュージシャン(それもジャズだけでなくロックエリアの人たちも含む幅の広さ)やアフリカ、南米など様々な地域の音楽家たちが集っていました。あのガトー・バルビエリも彼女との出会いがなかったらあんなに世界的な名声を勝ち取ることはなかったのじゃないでしょうか。彼女の持つグローバリズムは後進に大きな影響を与えた様に思います。ヨーロッパの即興演奏家たちはもとより、NYのラテンシーンを基盤に様々な音楽とのミクスチャーを作ろうとしたプロデューサーのキップ・ハンラハン、など、多くの人々にカーラの精神が受け継がれてきたと思います。

我々の近くでは、バリトンサックス奏者の吉田隆一が彼女たちの音楽を敬愛し「ジャズの第三世界」と定義づけ、リスペクトする様々な企画をやっています。彼も受け継いだ1人であるのは間違いないですね。2024年3月に彼の主催する追悼企画がありますので、ぜひ聴きにいらして下さいませ。

【追悼ライヴ】
「プレイズ・カーラ・ブレイ」

2024年3月30日(土) 19:30 新宿ピットイン
吉田隆一(bs)、後藤 篤(tb)、石川広行(tp)、北 陽一郎(tp)
細井徳太郎(g)、細海魚(key)、伊賀 航(b)、芳垣安洋(ds)
ゲスト:吉野弘志(b)、黒田京子(p)


芳垣安洋 Yasuhiro Yoshigaki: percussionist
1980年代、学生時代に関西のジャズシーンで活動を始めたのち、サルサ、アフリカ音楽、民族音楽など幅広いエリアで演奏を行うようになり、1990年代に入ると、Art Ensemble Of ChicagoやJohn Zornなどの影響を受け、しだいにメインストリートのジャズだけでなく、ロックや即興演奏やノイズ音楽などへも活動の場を広げる。
1990年代中ば、東京に移住し、内橋和久とのAltered States、不破大輔の渋さ知らズ、大友良英Ground Zero、 大友良英ONJQ〜ONJO、勝井祐二、山本精一とのROVO、菊地成孔DCPRGなどのジャズ〜アヴァン・ポップを牽引したバンドのメンバーとして活動。他にも、山下洋輔や坂田明、渋谷 毅、板橋文夫、梅津和時、片山広明、をはじめとするジャズ、UA、おおはた雄一、カヒミ・カリィ、元ちとせ、ハナレグミなどのポップス、「いだてん」「あまちゃん」など大友良英などの作曲家たちが制作するTVや映画の音楽、文学座などの舞台音楽、Co.山田うんなどのコンテンポラリーダンスの音楽など、さまざまなエリアで演奏活動を行うようになる。大友良英のグラウンドゼロや渋さ知らズオーケストラなどをきっかけに、アメリカやヨーロッパのフェスティバルなどに出演するようになる。
グルーブのある音楽から即興まで、幅広い音楽性を持つ打楽器奏者として、現在も「Orquesta Libre」「Orquesta Nudge! Nudge!」「On The Mountain」「MoGoToYoYo」「Vincent Atmicus」等多様なグループを主宰し東京を中心に演奏活動を行う。
中でもOrquesta Libreでは、ROLLY、柳原陽一郎、スガダイローなどの独特のサウンドを持つアーティストたちとのコラボレーションも行う。
打楽器を中心としたアンサンブルのワークショップリーダーとしての活動も、Orquesta Nudge! Nudge!などとともに継続して行っている。近年、東京都の主催企画「アンサンブルズ東京」日本財団の「True Colers Festival」などにもこの活動が繋がるようになっている。
日本のみならず、ヨーロッパやアメリカ、南米の音楽家との共同制作も行い、Lester Bowie、Don Moye、John Zorn、Bill Laswell、Enrico Rava、Barre Phillips、Lee Konitz、Rod Williams、Billy Martin、Cyro Baptista、Santiago Vasquezらと共演を重ねてきた。特に近年、Kasper Tranberg、Simon Toldam、Mark Solborg、Adam Pultz Melbyeらのデンマークの音楽家たちとの国境を超えた活動も続けている。

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