#02 さよなら 「悠々自適」悠雅彦さん コンサート
text and photos by 剛田武 Takeshi Goda
さよなら 「悠々自適」悠雅彦さん コンサート
11月25日(土)公園通りクラシックス
1st set
1. Cannonball Explosion Ensemble(砲弾爆発合奏団)
:山澤輝人 (tenor saxophone, flute) 剛田武 (violin, flute) ルイス稲毛 (electric-bass)
2. 藤本昭子(地歌)
3. 矢沢朋子 (piano)
2nd set
1. 仲野麻紀 (alto saxophone, metal clarinet)
2. ギラ・ジルカ (vocal) 深井克則 (piano)
3. 田村夏樹 (trumpet) 藤井郷子 (piano) 福本佳仁 (trumpet)八木美知依 (electric 21絃箏)
アンコール:加藤アオイ( piano & vocal)
悠さんのMCで演奏したかった。
悠雅彦さんとはJazz Artせんがわで何度かお会いしたことがあったが、軽くご挨拶する程度でほとんど言葉を交わしたことはない。果たして私のことをどのくらい認識されていたかもわからない。それにも関わらず稲岡編集長から悠さんの追悼コンサートへの出演の声を掛けていただけたのは身に余る光栄であるとともに、勝手ながら個人的に何かの縁を感じる出来事であった。
2022年末にキカンジュ・バクのドラムの音源に、山澤輝人とルイス稲毛と筆者でオーヴァー・ダビングするプロジェクトとしてスタートしたCannonball Explosion Ensemble/砲弾爆発合奏団(当時の名義はMachine Gun Explosion Ensemble/機関銃爆発合奏団)は、完全即興でありながら、INCUSやFMPといったヨーロッパ系フリー・インプロヴィゼーションよりも、アルバート・アイラーやアート・アンサンブル・オブ・シカゴといったアメリカのフリー・ジャズに近いサウンドを生み出していた。それは意識的なものではなく、各メンバーが聴いてきた/演奏してきた異なる経験と記憶が出会った結果であり、出会いの場所(スタジオ)が6,70年代にニューヨークから離れて独自の音楽風土を育てたシカゴのように、東京のインドと呼ばれる異質な街・高円寺だったことも関係あるかもしれない。筆者のエフェクトたっぷりのバイオリンや、山澤のアイデアで導入した韓国語や鳥の囀りのSE や、ゲスト参加の佐伯武昇の破天荒なパーカッションが、オーセンティックな演奏を逸脱させて生まれた音源が、ロスコー・ミッチェルとキカンジュのデュオとAB面カップリングのカセットテープとしてリリースされたことも偶然ではなく(Art Ensemble of)シカゴの神の導きだったと言ったら大げさだろうか。そして70年代にWHYNOTレーベルから、ムハール・リチャード・エイブラムス、チコ・フリーマン、エアー=ヘンリー・スレッギル+フレッド・ホプキンス+スティーヴ・マッコールなどシカゴAACM派の有力ミュージシャンのレコードを世界に先駆けて制作した悠さんの功績を考えると、我々が悠さんに捧げるステージに立つことは運命だったと勘違いしても許していただけるかもしれない。もちろん悠さんが生前に我々の音源を聴いたとしても果たして気に入っていただけたかどうか自信はないが。
しかしこの追悼コンサートの出演者の幅広さをみれば、悠さんがジャンルやスタイルを遥かに超えて(Far Beyond)、汲めども尽きぬ豊饒の音楽を聴き、語り、愛してきたことがよくわかる。トップを飾った我々のはちゃめっちゃな演奏に苦笑いする悠さんの精悍な尊顔が客席の後ろの暗闇に見えた気がする。
残念だったのはセシル・テイラー・ユニット『アキサキラ』の冒頭の悠さんのMCでCannonball Explosion Ensembleの演奏がスタートする、という稲岡編集長のアイデアが会場の機材の関係で実現できなかったことである。後付けではあるが、当日のライヴ録音にオーヴァー・ダビングして作ってみたのでお聞きいただければ幸いである。