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R.I.P. 林 聡No. 320

林聡さんに感謝を込めて 岡崎 凛

林聡さんと初めて会ったのは、神田綾子&sara(.es)による即興デュオ・ライヴ “FUJIN / RAIJIN”について取材したときだった。

それは、2023年9月25日よりギャラリーノマルで開催された5名の作家によるグループ展「B4 (ビーフォー) 」の展覧会の期間中に行われた神田綾子 (vo) & sara (.es) (piano,percussion)によるライヴ・イベントであり、宇都宮泰さんがレコーディングを行い、のちにCD化された。私は出演者 saraさんと、本作のプロデューサーである林さんに取材を申し込み、2人がふだんギャラリーノマルで行っている仕事や、アーティスト、プロデューサーとして2人が貫く姿勢などについて話を聞いた。つまり、私は林さんと知り合ってから、1年ぐらいしか経っていない。だがおそらく、彼にとって極めて充実していた「晩年」の姿を、何度も目にすることができた。ほんのわずかの間とはいえ、常に明晰な頭脳がフル回転するような林さんと知り合えたことを、心から嬉しく思うし、誇らしいと感じる。

キャラリーノマルに取材したときに、ほとんど予備知識のない私に、saraさんが丁寧に応対してくれたことや、ノマルのオフィスで、代表である林さんに紹介されたとき、パソコンを前に座る林さんの存在感に胸がどきどきしたことを思い出す。目の前にいるのが特別な人だと直感した。リーダーシップがにじみ出ていると感じた。だが林さんは、威厳がありながら、寛容でもある人に思えた。彼と数回しか会っていない者が、何を判断できるのかと言われるかもだが、とにかく、そう思った。また、彼の語り口に惹かれた。ギャラリーノマルの展覧会会場で行われるライヴでのオープニング・トークでは、彼は展示作品や作者について、平易な言葉で熱のこもった説明をしていた。

公式な挨拶のときではなく、もっと気軽な席で、林さんがオーディオやレコーディングに関して楽しそうに語っていたのを思い出す。宇都宮泰さんと2人でのオーディオ談議では、「味の素」をたっぷり使ったような録音はよくない、という例え話をして、意気投合していた。ギャラリーノマルからリリースされ、宇都宮泰さんが録音やミキシングを手がける「Utsunomia MIX」シリーズ(彼が録音を担当していない作品も一部含まれる)に関して、林さんの信頼は、絶対に揺らぐことはないだろうと思った。

このときが林さんの話を聞く最後となった。当然そんなことは予想もせずに、もっと話の続きを聞きたいと願いながら、ギャラリーノマルを後にしたのが2024年8月24日だった。その日のライヴの出演者は、沼尾翔子 vocal, guitar/sara(.es) piano, etc.であり、コンサートのタイトルは、<古巻和芳個展関連Live “Skywalker”>。硬く張った糸の上で、やじろべえのように揺れる木彫りの少女像が、まるで第三の出演者のようにコンサートに加わっていた。

ディレクター、林聡さんの作るノマル空間でしか体験できないものに出会い、うっとりと過ごした時間を思い出している。これからも、遠いどこかから、林聡さんが美術・音楽監修のインスピレーションを送って来て、だれかが必ず引き継いでいくような気がしている。

*写真キャプション
ギャラリーノマルでのグループ展「B4(ビーフォー)」展会場での林聡さん(筆者撮影)。

岡崎凛

岡崎凛 Ring Okazaki 2000年頃から自分のブログなどに音楽記事を書く。その後スロヴァキアの音楽ファンとの交流をきっかけに中欧ジャズやフォークへの関心を強め、2014年にDU BOOKS「中央ヨーロッパ 現在進行形ミュージックシーン・ディスクガイド」でスロヴァキア、ハンガリー、チェコのアルバムを紹介。現在は関西の無料月刊ジャズ情報誌WAY OUT WESTで新譜を紹介中(月に2枚程度)。ピアノトリオ、フリージャズ、ブルースその他、あらゆる良盤に出会うのが楽しみです。

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