JazzTokyo

Jazz and Far Beyond

閲覧回数 227 回

My Pick 2024このディスク2024(国内編)No. 321

#05 『坂本龍一/OPUS』 木内秀行

commmons/RZBM-67102

坂本龍一 piano

1. Lack of Love
2. BB
3. Andata
4. Solitude
5. for Jóhann
6. Aubade 2020
7. Ichimei – small happiness
8. Mizu no Naka no Bagatelle
9. Bibo no Aozora
10. Aqua
11. Tong Poo
12. The Wuthering Heights
13. 20220302 – sarabande
14. The Sheltering Sky
15. 20180219 (w/prepared piano)
16. The Last Emperor
17. Trioon
18. Happy End
19. Merry Christmas Mr. Lawrence
20. Opus – ending

Bonus Content
21. Improvisation on Little Buddha Theme

 

坂本龍一さんの没後、NHKで放送された「坂本龍一Playing the Piano in NHK & Behind the Scene」を見た。
モノクロでの演奏シーン、鍵盤をなぞる坂本さんの指先は枯れ木のように細くなり、照明の加減でその細い指や手には色濃くしわが刻まれて痛々しい趣が漂う。ピアノを弾く坂本さんは病のため見る影もなく細く小さくなってしまっていた。それでも坂本さんは魂を込めて一音一音いつくしむようにピアノを弾き、そこから流れ出る音はシンプルながらも美しかった。最後<Merry Christmas Mr. Lawrence> を坂本さんが弾き終えた時、「ああ、これで坂本龍一のパフォーマンスは永久に終わってしまったのか」とすごく切なくなった。
そんなことをかつてワタシは本誌に執筆した。そしてそこに「このパフォーマンスのDVDが出たらワタシは絶対買います(是非出してください)」と付け加えた。単にテレビで見たものを目に焼き付けておくだけでなく、そのパフォーマンスを所持し、折に触れて聴いていたいという気持ちは、ワタシだけでなく、坂本龍一さんのファンであれば誰しもが持っているものであろう。
その祈りが通じたか、『Opus』という形で、この坂本龍一さんのセッションの完璧盤がこの世に出ることになった。その報を聞いたときは、文字通り欣喜雀躍、この作品が発売される12月が来るのが待ち遠しかった。
そしてついに作品が手元に届いた。これでテレビで見た坂本さんのパフォーマンスを自分の好きな時間に好きなだけ見ることができる。
この作品はNHKで放送された「坂本龍一Playing the Piano in NHK & Behind the Scene」から、さらに収録曲を増やした21曲(CDは20曲)から成る。坂本さんの最後のパフォーマンスの映像を再び目の当たりにして、NHKでの放送を見た時の新鮮な感動が再び湧き上がってきた。
これが坂本さんの遺作!!坂本さんの最後のパフォーマンスとメッセージ。この時にはもう坂本さんは「これが最後」と覚悟を決めていたのだろうか。坂本さんに音楽の道にいざなっていただいた者としては、胸がつぶれるほど悲しい。しかしそうした感傷を抜きにして、坂本さんから紡ぎだされる一音一音は相変わらず心に染み入り、坂本さんが行きついた現時点での究極の地位を示す。
「自分としては、ここにきて、割と新境地かなという気持ちがあります」との坂本さんのジャケット上のコメント。常に前進を求める音楽家としての坂本さんの心境が現れていて実に感動的。
「Ars longa, vita brevis」。芸術の道のりは人類が滅亡するまで続くのに対して、人間の生涯は一瞬であることから、これはやむを得ないと思うが、それにしても坂本さんの71年の生涯は短かった。
坂本さんのパフォーマンスに生で触れることはもうかなわないけれど、坂本さんのパフォーマンスの映像をいつでも見ることができる。いい世の中になった。
坂本さんありがとう。そしてこの作品を世に送ってくれたcommmonsのスタッフの皆さんに心から感謝する。そして、commmonsを擁するエイベックスに一時でも身を置いたことを誇りに思う。
あらためて、いい音楽をありがとう。RIP…..


木内秀行 Hideyuki Kiuchi
1965年群馬県高崎市生まれ。1989年中央大学法学部卒業。 1993年早稲田大学大学院法学研究科修了。 1999年ペンシルヴェニア大学ロースクール修了。弁護士(日本国・米国ニューヨーク州)。中学生の頃 YMOを聴いて音楽に開眼し、その流れでフュージョンに親しんだ後、大学2年生の時 Bill Evans を聴いて一生ジャズを聴いていこうと決意する。ジャズに親しんで司法試験合格が遅れるが、「ジャズなくして何の人生かな」と一片の反省もない。現在もジャズや R&B など幅広く日常的に聴いている。

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください