#07 『マッコイ・タイナー、ジョー・ヘンダーソン / Forces of Nature: Live At Slugs』 齊藤 聡
Blue Note Records
McCoy Tyner (piano)
Joe Henderson (tenor saxophone)
Henry Grimes (bass)
Jack DeJohnette (drums)
1. In ‘N Out
2. We’ll Be Together Again
3. Taking Off
4. The Believer
5. Isotope
Recorded live at Slugs’ in New York, NY in 1966
Produced for release by Zev Feldman, Jack DeJohnette, Lydia DeJohnette
Executive Producer: Don Was
Associate Producer: Zak Shelby-Szyszko
Recorded live by Orville O’Brien at Slugs’, New York, NY in 1966
Mastered by Matthew Lutthans at The Mastering Lab, Salina, KS
ジョー・ヘンダーソンは1964年の暮れにはマッコイ・タイナー、エルヴィン・ジョーンズらと組んで『Inner Urge』を、また66年のはじめには傑作『Happenings』を吹き込む直前のボビー・ハッチャーソンらを招いて『Mode for Joe』を吹き込んでいる。前者はハードバップの延長、後者にはハッチャーソンの影響もあってか新主流派の感覚が注入されている。変遷期ゆえのことだとすれば、その時期に行われたライヴ録音の本盤にも両方の要素が見出せそうなものだ。
だがそのような言説にはあまり価値がない。なにしろジョーヘンはこのときまだ二十代であり勢いに乗っている。そして晩年「テナー・タイタン」と呼ばれるようになっても、枯れてはいてもこの音色をトレードマークにし続けていた。つまり、かれはすでにジョーヘンとしてのアイデンティティを確かなものにしていた。ラベリングにばかり言及するのがナンセンスとはそういうことだ。
それはマッコイ・タイナーについてもいうことができる。やはり二十代、ジョーヘンよりひとつだけ年下。すでに、単音を繰り出すスタイルから、和音を広げてはともかくも前進してみせる独特のスタイルへと変貌しおおせていた。ちょっと聴けばマッコイと判る。
ヘンリー・グライムスはかれらよりも少し上、30になるかならぬかくらい。すでにアルバート・アイラーやドン・チェリーといった強者たちとの共演をはじめている。何年かするとシーンから姿を消し死亡説も流れるようになるのだが、そのような予感など欠片もない演奏だ。
そして最年少ジャック・ディジョネットの勢いにはやはり気圧される。かれにとって66年はマイルストーンでもあって、チャールス・ロイドのグループに迎えられて『Dream Weaver』や『Forest Flower』といった大傑作が生まれるのにひと役買っている。オーソドックスなアプローチでありながら鮮烈であったことは、68年にビル・エヴァンス・トリオのドラマーとして参加したときの『At the Montreux Jazz Festival』を思い出せば十分だろう。
なぜこれほどに奇跡的な邂逅のドキュメントが眠っていたのだろう。
(文中敬称略)
ジャック・デジョネット、ジョー・ヘンダーソン、ヘンリー・グライムス、マッコイ・タイナー