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My Pick 2024このディスク2024(国内編)No. 321

#03 『建畠晢×17人の美術家×sara(.es) / 詩人と美術家とピアニスト』 稲岡邦彌

ノマル35周年記念詩画集(CD付き)

[詩人] 建畠晢
[美術家] (17名)
木村秀樹, 植松奎二, 片山雅史, 中川佳宣, 今村源, 名和晃平, 稲垣元則, 田中朝子, 藤本由紀夫, 東影智裕, 黒宮菜菜, 飯川雄大, 小谷くるみ, 山田千尋, 栗田咲子, 高嶋英男, 池上恵一
[ピアニスト] sara(.es ドットエス)

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アートディレクション: 林聡
仕様: A5変形 / 上製本 / CD付き
ページ数: 全80ページ(本文 72ページ)
発行日: 2024年10月26日
発行部数: 初版 500部
出版: ノマルエディション
販売価格: 3,300円 税込
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CD収録内容

旅の遅延
葉桜の町
秋のルフラン
茄子の構造
アイダホの魚
パトリック世紀
見上げると屋根の塔に
土蔵とシャンソン
円陣の夢
透明な住人
建畠晢:朗読
Sara(.es):ピアノ、パーカッション、ハーモニカ

宇都宮泰:録音、マスタリング
録音:9月14日、ギャラリーノマル

大阪を中心に関西美術界を牽引するギャラリーノマルの35周年企画。CD付き詩画集である。オーナーでプロデューサー(ギャラリーの経営者でキュレイター以上の仕事をしていたのでプロデューサーというべきだろう)の林聡は35周年の企画とイベントを仕上げて旅立った。潔い人である。僕はギャラリーノマルの現場に足を踏み入れたことはなく、成果物のひとつであるエキシビションと合わせて企画されるコンサートのライヴCDを聴き続けてきたに過ぎない。エキシビションの只中で行われるコンサートであるから演奏者は出展作家からt代の絵お経を受けているはずであると信じながら。
この詩画集にはノマルとは縁の深い詩人・建畠晢の17編の詩に触発された美術作家から提供された作品が併載されている。作品は二次元もあれば三次元もある。詩にインスパイアされる作家のイマジネーションは多様である。詩画集には、さらにCDが付いている。ノマルで行われた建畠晢の自作詩の朗読と即興で対峙するsara (.es)のピアノ演奏をライヴ収録したものだ。録音担当は宇都宮隆。Utsunomiyaマジックで建畠の背後にsara のピアノを使って煌びやかな音場を演出する。こちらは、10テイク。詩画集とだぶる作品もあればそうでないものもある。ポエトリー・リーディングといえば吉増剛造や白石かずこを思い出す。いずれもフリージャズと共演した。アメリカではアミリ・バラカ(リロイ・ジョーンズ)。彼はパフォーマーを自称し、楽器を演奏するように詩を朗読した。朗読というより詠唱というべきか。時には詩の断片をインプロヴァイズすることもあり、その後のラップの原点とも言えるパフォーマンスだった。日本の詩人も演奏者との互いの交感を試みようとする例が多かったように思う。翻って建畠晢の場合はどうか。むしろ感情を抑えて淡々と朗読する。そんなことを考えながら傾聴していたら突然大声で「馬鹿野郎!」と怒鳴られた。しまった、見透かされたか!一転、江戸っ子のべらんめえのようにまくしたてる建畠。応じる sara のピアノ。口絵の建畠の写真がまだ「馬鹿野郎!」と怒鳴っている。

*関連記事
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今年、もう1点 、注目すべき「CD Book」が刊行されている。仲野麻紀の『古今-cocon-』。こちらは、俳句と音楽と写真集。仲野は渡仏してから日本人としてのアイデンティティを自覚し、句作を始め、句の吟詠と演奏のコラボレーションを試みるようになった。これはその成果の一端である。音楽はサックスの他にエフェクトも使ったアンビエント風といえば良いか。句の吟詠は日仏二か国語。写真撮影以外はすべて仲野の手になるソロ作品だ。

配信に押されっぱなしのパッケージ・メディアだが、上記ふたつのCD-Bookは非常にクオリティの高い作りで、復権しつつあるSACDとともにパッケージ・メディアのひとつの理想形を示す形態ともいえそうだ。

稲岡邦彌

稲岡邦彌 Kenny Inaoka 兵庫県伊丹市生まれ。1967年早大政経卒。2004年創刊以来Jazz Tokyo編集長。音楽プロデューサーとして「Nadja 21」レーベル主宰。著書に『新版 ECMの真実』(カンパニー社)、編著に『増補改訂版 ECM catalog』(東京キララ社)『及川公生のサウンド・レシピ』(ユニコム)、共著に『ジャズCDの名盤』(文春新書)。2021年度「日本ジャズ音楽協会」会長賞受賞。

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