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My Pick 2024このパフォーマンス2024(海外編)No. 321

#01 ベッカ・スティーヴンスとマカヤ・マクレイヴン 後藤雅洋

「ベッカ・スティーヴンスとマカヤ・マクレイヴンのライヴを観て」

■ベッカ・スティーヴンス BECCA STEVENS Solo ”Maple to Paper”
8月24日 ブルーノートプレイス(恵比寿ガーデンプレイス内)

ベッカ・スティーヴンス (g,vo)

ジャズ喫茶経営の立場からすれば当然内外の好アルバムについて書くべきなのですが、一番印象に残ったのはこれからご紹介する2つの海外ミュージシャンによるライヴ・パフォーマンスだったのです。

ちなみに今年のライヴ予定表を振り返ってみると、1月のパット・メセニーに始まり2月のミシェル・ンデオゲチェロ、4月のロバート・グラスパー、8月のベッカ・スティーヴンス、チャールス・ロイド、9月のエズラ・コレクティヴ、10月のケニー・ギャレット、11月のヌバイア・ガルシア、ジュリアン・ラージ、エスペランサ・スポルディング、マカヤ・マクレイヴンなど現在注目の海外ミュージシャンたち総計23回ほどと、ほぼ月に2回のペースで海外ミュージシャンのライヴに足を運んでいたことになります。それらはすべて満足度が高く、「外れ」はほとんどありませんでした。

中でも圧倒的だったのが恵比寿ガーデンプレイス内のブルーノートプレイスで8月24日(土曜日)に行われたベッカ・スティーヴンスのソロ・パフォーマンスでした。当初バック・バンドなし、本人のギター、ウクレレのみというサウンド設定はどんなものかと若干危惧していたのですが、そんな思いを吹き飛ばす快演に同行したジャズ関係者すべてが驚愕したのです。

歌が巧いのは当然として、彼女こんなにギターが巧いのかと一同驚嘆、加えて若干マイナー視されているウクレレからこんなにも豊かな音楽が溢れ出るものかとこの楽器の潜在能力を再発見したのです。

今、「巧い」とわかりやすい言い方をしましたが、もう少し詳しく言うと彼女の場合「技術」が優れた「音楽性」と緊密に結びついているのですね。そこが凄い。ベッカの歌、ギター、ウクレレは「巧いだけの人」にありがちな「没個性」や、嫌な言い方をすれば「これ見よがし」がまったく無い。実に素直な音楽なんです。前から彼女の存在には注目していましたが、このライヴで完全に彼女の熱烈なファンになりましたね。

余談ながら幅広い音楽評論の大御所、高橋健太郎さんが「こんないいライヴになぜカントリー・ファンが一人も顔を見せないんだろう」と慨嘆しておりました。音楽を「ジャンル」だけで眺めているとこうした「見逃し」が起こるんでしょうね。

■マカヤ・マクレイヴン
11月22日 渋谷WWW X

これが今年の「ベスト・ライヴ」かと思い定める中、彼女とは全く対照的とも言えるミュージシャン、マカヤ・マクレイヴンのライヴが再びジャズ喫茶店主としての私を圧倒したのです。当初、渋谷 WWW X でのオール・スタンディングという設定に後期高齢者としての私は若干躊躇したものの、昨年のブルーノート・ライヴにおける圧倒的なパフォーマンスに「これは見逃せない」とばかりに腰を上げたのでした。

案ずるより産むが易しではありませんが、良い音楽は疲れを忘れさせますね。とにかくドラミングが凄いんです。前回のブルーノート・ライヴで、マカヤは優れたプロデューサーであるだけでなくドラマーとしても超一流であることはわかっていましたが、スタンディングの聴衆を前にしたマカヤはまさしくとんでもない「怪物」だと驚かされたのです。

スローな楽曲の出だしから始まったパフォーマンスは次第に熱量をアップ、聴かせどころでペースを上げていくのですが、もうここまでか、と思うところでもう一段、もう一段とスピード、パワーが上がって行くんです。これがとんでもない! 一般にハイテクかつハイスピード・ドラミングは音が軽やかになって行きがちなのですが、彼の場合、早くて重いんです! こんなドラマーは初めて。率直に言って、これ聴いちゃうともう元には戻れません。

もう少し詳しく言えば、彼、わかりやすいドラム・ソロはあまりとらずあくまで音楽の中のドラミングのスタンスを崩さないのに、存在感が圧倒的なんですね。彼の中で音楽家、バンド・リーダー、ドラマーの3要素が実に効果的な形で結びついているんです。昔から「ジャズのリズムは進化する」と言われてきましたが、マカヤの存在はまさにその具現化です。明らかに現在のジャズは新たなディメンションに突入したんです。


後藤雅洋 ごとうまさひろ
1947年、東京生まれ。中等部から慶應義塾で学ぶ。慶應義塾大学商学部在学中の1967年、四谷にジャズ喫茶「いーぐる」を開店、現在に至る。1988年『ジャズ・オブ・パラダイス』を上梓以来、ジャズ評論でも著書多数。近著(監修)に『ゼロから分かる!ジャズ入門』(世界文化社)。最新刊は『ジャズ喫茶いーぐるの現代ジャズ入門』(シンコーミュージック)

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