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My Pick 2024このパフォーマンス2024(国内編)No. 321

#05 「sonora do silêncio at 京都 Live Spot RAG〜沢田穣治、太田 剣、柳原由佳」 神野秀雄


<Surreal Sunset> (柳原由佳) 2024年5月7日、京都 Live Spot RAG

2024年5月7日(火) 19:30 @京都 Live Spot RAG

【sonora do silêncio】
沢田穣治 Jyoji Sawada: contrabass
柳原由佳 Yuka Yanagihara: piano
太田 剣 Ken Ota: sax

1. Surreal Sunset (柳原由佳) - 冒頭のYouTubeで公開中
2. Anoitecer (沢田穣治)
3. 優しい雨 (柳原由佳)
4. Rain (太田剣)
5. Summertime (沢田穣治)

6. Prism (Keith Jarrett)
7. Echoes (太田剣)
8. Lau Dai (太田剣)
9. Memory of Yuka (沢田穣治)
10. 2018 March (柳原由佳)

11. Old Country (沢田穣治)

沢田穣治、太田 剣、柳原由佳によるユニット「sonora do silêncio」。ショーロクラブで35年活動、プロデューサー、作曲家、レーベルUnknown Silenceを主宰する鬼才 沢田穣治。バークリー音楽大学出身、2023年にデトロイト・ジャズ・フェスティヴァルに「KHAMSIN」で出演し喝采を浴び、ヨーロッパへアジアへと活動の場を広げる柳原由佳。名門VerveからCDデビュー、故和泉宏隆との共演、矢沢永吉のサポートなど幅広く活躍する太田剣。3人とも多数のプロジェクトに挑み、アルバム創りに精力的な点も共通だ。お互いをリスペクトしながら、まだ出会っていない音楽家3人が当日初めて集った「the first contact」ライヴを2023年10月20日に池袋「Apple Jump」で敢行し、ほぼ初見状態で、想像を超える緻密でありながら自由で心地よいサウンドを生み出した。
2023年12月の渋谷「公園通りクラシックス」公演ではパーカッションKANをゲストに迎え新しい世界を魅せた。筆者自身による素人のほんの思いつきから始まった組み合わせが予想を遥かに超える成功を収め、レギュラーユニットとして動き出した。

そして、満を持して初の大阪・京都ツアーが実現。京都を拠点とする沢田穣治、大阪を拠点とする柳原由佳を擁するだけに里帰り公演でもあった。京都RAGに先立って、2024年5月6日大阪・天満の南国風古民家カフェ「Bamboo Club」で大阪公演を行い、その翌日が京都公演となった。京都の老舗ジャズクラブ「Live Spot RAG」は、1981年に北山でジャズ喫茶として開店した後、1988年に鴨川からほど近い木屋町三条に移転し関西のジャズシーンを育んできた重要なハコだ。沢田と柳原もたびたび出演している。

1曲目は、東京と大阪の2拠点を毎月のように移動している柳原が、新幹線で滋賀県を通過する際に見た”現実に有り得ないほど美しい夕暮れ”をイメージして書いた<Surreal Sunset>。この1曲に限りYouTube公開されているので、この記事のトップに置いた画面からご覧いただき”静寂の響き”を実感されたい。続いて、同じく夕暮れをテーマに沢田が作曲し、ポルトガル語で名付けられた<Anoitecer>。「ミュージシャンは、夕暮れや雨をテーマにしがち」と3人はMCで自嘲しあいながら、雨シリーズへ向かい、柳原の<優しい雨>と太田の<Rain>でそれぞれが感じた雨を対比させる。

前半最後の<Summertime>は、ジョージ・ガーシュイン作のスタンダードではなく、映画『コザママ♪うたって!コザのママさん!!』の音楽制作で、監督からジョージ・ガーシュウィンの<Summertime>を使いたいと言われ、スタンダードそのものではなく、自作にこだわりたい沢田がそれに似た雰囲気の曲を作り<Summertime>と名付けたが、監督が「暗いなー」と言って没にしたが、沢田は、映画とは別に大切に演奏している。

後半は、今回、唯一のカヴァー曲となる。キース・ジャレットの<Prism>から。<Prism>の初録音は1979年4月、中野サンプラザでの『Personal Mountains』(ECM1382)だが、1983年1月スタンダーズトリオ初録音時の『Changes』(ECM1276)が先にリリースされている。『Gary Peacock/Tales of Another』(ECM1101)に始まったスタンダーズトリオ編成が、ゲイリー・ピーコックの京都・蹴上暮らしを経て結成されたことも考えても京都での<Prism>演奏はこの3人にとって特別だ。太田は、2018年7月18日、キース・ジャレット・トリビュート・バンド「太田 剣 Four Kartets」(太田剣、松本圭司、鳥越啓介、大槻KALTA英宣)でRAGに出演したことがあり、2018年と2024年、2回の公演で2回とも<Prism>を演奏したことをMCで語った。聴いてて気持ちが良いのに演奏が超絶難しい曲だが、この3人の名手は、コードの流れに的確に沿いながら美しいソロを奏でていく。

太田が関西ツアーに書いた新曲<Echos>と、学生の頃に岐阜城へ行った印象を描いた<Lau Dai>。沢田が友人で女優の小島由佳が5年前に亡くなったことを知り、公演の数日前に書いた<Memory of Yuka>。柳原作曲の爽やかな希望に満ち溢れた<2018 March>で締め括られた。ちなみにヴォーカル版では<Light of Hope>のタイトルがつく一曲だが、<2018 March>は「sonora do silêncio」の代表曲のひとつとなっている。”横濱エアジン”公演のアンコールで演奏された、柳原の<2018 March>の動画が公開されているのでぜひご覧いただきたい。

<2018 March> (柳原由佳) 2024年9月27日、横濱エアジン

鳴り止まない拍手に、アンコールには沢田が父との子供時代の尼崎での想い出を描いた<Old Country>に想いと感謝を込めて演奏された。私ごとで恐縮だが、筆者の父、彫刻家、日展作家であった神野忠和が大阪・京都公演直前に亡くなっており、私の想いと感謝を重ね合わせて聴き、その意味でも、京都RAGは生涯忘れられない公演となった。

【参考動画】<Old Country> (沢田穣治) clube brasileiro especial / 沢田穣治(b) 馬場孝喜(g) KAN(perc) 2024年3月18日 横濱エアジン

いつもながら、3人の美し過ぎるオリジナルの数々に魅了された。緻密で透明な世界だが、他方、メンバーによれば「どこに行くかわからない」、「決め事を守らない」、「普段使わないアンテナを使う」特異な感覚の中で、自由で揺らぎのあるサウンドを生み出す。大阪・京都公演を経て、ユニットの密度と完成度が急に高まり何かが動き出した。このあと、9月25日、東京・渋谷”公園通りクラシックス”、9月27日神奈川”横濱エアジン”での関東公演が行われた。

● 【sonora do silêncio】2025年1月公演
【渋谷・公園通りクラシックス】 2025年1月15日(水) 19:30
東京都渋谷区宇田川町19-5 日本基督教団 東京山手教会 B1F 最寄駅: 渋谷駅
ミュージック・チャージ: 4,000円(税込)
ご予約はこちら
公式ウェブサイト

【柏・ナーディス】 2025年1月12日(日) 14:00
千葉県柏市柏3-2-6 ksビル 1F 最寄駅:柏駅
ミュージック・チャージ: 3,630円(税込)
ご予約はこちら

2023年に一期一会プロジェクトのつもりで始めた「sonora do silêncio」だが、全員にとって大切なレギュラーユニットとして定着し、3年目を迎えることになった。2025年1月は、「sonora do silêncio」のホームとなる渋谷「公園通りクラシックス」と、初出演となる千葉県柏市の「ナーディス」での2公演を行う。渋谷「公園通りクラシックス」は、1966年にできた日本基督教団 東京山手教会地下1階にあり、矢野顕子、坂本龍一、山下達郎、小室等などが演奏し、武満徹も足を運んで、文化を育んできた伝説のハコ「渋谷・ジャンジャン」のバックスペースにもあたる。アコースティックな響きの美しさでも圧倒的な支持を受ける「公園通りクラシックス」で、新年を迎えての”静寂の響き”を体感して欲しい。

●沢田穣治:コントラバス
ショーロクラブでの活動は35年に及ぶ。映画音楽・沖縄島唄・現代音楽・音響系作品の制作や、J-POPアーティストのプロデユース、アレンジなど多種多様な音楽制作に携わる。作曲家としてはフォンテックから委嘱作品などを集めた室内楽作品集『silent movie』などを発表する。京都移住を機会に京都市立芸術大学で修復されたバシェとの再会がありその研究に関わりその音源をリリースする為「Unknown Silence」を立ち上げる。最近は中川陽介監督作品「コザママ」の音楽など、アニメARIAシリーズでは音楽を長く担当。代表作は2012年には海外の音楽家も多数参加する総勢20名による「No Nukes Jazz Orchestra」などがあり、最近作では「武満徹ソングブック-コンプリート」ショーロクラブ『Caleidoscópio』 を発表

●太田剣:サックス
早稲田大学ロシア文学専攻卒。池田篤、Kenny Garrettに師事。2006年、ジャズの名門「Verve」レーベルよりCDデビュー。国内外のジャズフェスティバルへの出演やツアーなどジャズシーンでの活動以外にも、矢沢永吉、中村あゆみ等のLIVEサポートやクラシックコンサートへの客演などその活動は多岐に渡る。最新録音は秋田慎治(p)土井孝幸(b)とのユニット“k.a.t.”第二作『glare grey blue』(2024年9月よりオンラインストア先行発売中)

●柳原由佳:ピアノ
Berklee College of Music ジャズ作編曲科卒業。ジャンルを問わず自己トリオを含め関東関西で現在20以上のバンドやユニットで活動。2023年、所属バンドKHAMSINでDetroit Jazz Festivalに出演。スタンディングオベーションを受け好評を得る。
2024年には前年フランスシャモニーで録音したソロピアノアルバムを含め5枚のアルバムをリリースするなど、国内外で精力的に活動している。

【参考動画】<Memory of Yuka> (沢田穣治) 西島 芳・沢田穣治・渡辺 亮 トリオ 2024年6月10日 京都RAG

【参考動画】映画『映画コザママ♪ うたって!コザのママさん!!』予告編

神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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