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R.I.P. アンソニー・ジャクソンNo. 331

RIP アンソニー・ジャクソン 超個人的CD10選

text by Akira Sakamoto 坂本. 信

1970年代初頭から2010年代半ば過ぎまでの長きにわたって、ポップスからコアなジャズまで、様々なアーティストとのセッションで活躍し、その個性的な音楽スタイルと共に6弦ベース(本人はコントラバス・ギターと呼んでいた)という新しい楽器のジャンルを確立させたアンソニー・ジャクソンが、10月19日に世を去った。1990年代に脳卒中を患い、その後見事に復活するも病気が再発、最晩年にはパーキンソン病を患うという不幸に見舞われたが、彼が遺した数々の名演は、将来の世代にわたって評価され、後進に様々なインスピレイションを与え続けるに違いない。
個人的にも、彼に何度もインタビューを行う機会に恵まれてその金言に触れ、アンソニーが参加した伊東たけし(as)のアルバム『Visions』(1992年)のサポート・ツアーにおいては、ベース・パートを仰せつかるという稀有な機会を得たということで、他のどの有名ベーシストよりも強い縁を感じている。
そんなわけで、アンソニー・ジャクソンの参加作品を超個人的な視点で10点選んでみた。ロバータ・フラックの諸作品やスティーリー・ダンといった、より広く知られているであろう作品はあえて触れず、かなり偏った内容ではあるが、ご参考いただければ幸いだ。

『360 Degrees Of Billy Paul』:Billy Paul(1972年)
いわゆるフィラデルフィア・サウンドの代表作のひとつで、アンソニーの参加曲としては初のグラミー受賞曲「Me and Mrs. Jones」が収録されている。

『Ship Ahoy』:O’Jays(1973年)
「For The Love Of Money」で初めてベースにモジュレーション系のエフェクター(この時にはマエストロのフェイザー、後にMXRフランジャー、あるいは「BOSS CE-2」)を通すことで、全く新しいベース・サウンドを打ち出した画期的な演奏が聴ける1枚。

『Tuff Dude』:Buddy Rich(1986年)
発売は1986年だが、演奏は1974年で、アンソニーがバディ・リッチのバンドにいた時のもの。「Donna Lee」や「Nica’s Dream」、「Billie’s Bounce」といったジャズ・スタンダードを演奏するアンソニーが聴けるのが珍しい。エレキ・ベースでカッコ良くスウィングできるベーシストの筆頭と言えるひとりなのがわかる。

『The Leprechaun』:Chick Corea(1975年)
チック・コリアがリターン・トゥ・フォーエヴァーで活動中に発表したソロ作の1枚。アンソニーが参加したのは2曲のみだが、とりわけ「Night Sprite」での切れの良さとスピード感のある演奏は、4弦ベース時代のアンソニーの名演のひとつだと思う。

『Gentle Thoughts』;Lee Ritnour(1977年)
西海岸で活動していた頃のアンソニーの最高の演奏が聴けるのがこれ。演奏を直接ラッカー盤に記録する、ダイレクト・カッティングによる作品で、ミスをしたらLPの片面全部が録り直しになるという緊張感のある状況での、超絶技巧連発の演奏は圧巻。おそらく、70年代フュージョン・ブームにおける最高傑作のひとつ。

『Elegant Gypsy』:Al DiMeola(1977年)
70年代のアンソニーと言えば、アル・ディメオラの初期3部作への参加も見逃せない。3部作の真ん中にあたるこのアルバムでは、大曲志向のディメオラの音楽に、ツー・フィンガーとピック弾きを巧みに切り替えての多彩な表現力で対応している。

『Chaka』:Chaka Khan(1978年)
日本では『恋するチャカ』というタイトルで発売されていた。こういうファンキーでソウルフルなアーティストのバックで演奏すると、アンソニーがジェイムス・ジェマーソンに影響を受けていたのがよくわかる。チャカ・カーンのアルバムでは『Naughty』(1980年)にも参加。

『The Suitcase Live in Koln ‘94』:Steve Khan(2008年)
スティーヴ・カーンとの共演と言えば、彼が率いたバンドEyewitnessのスタジオ盤3作品と六本木ピット・インでのライブの模様を収めた『Modern Times』がどれもおススメだが、1994年にケルンで収録されたこのライブは、デニス・チェンバースとのインタープレイに圧倒される。アンソニーはインスト・バンドのライブだとかなり解き放された演奏をするが、ここまでブチキレた演奏は貴重。

『Twilight~the “Live” best of Akiko Yano』:矢野顕子(2000年)
脳卒中から見事復帰したアンソニーが、1996年から99年にかけて参加したライブの模様を収めたアルバム。アンソニーの体調悪化を恐れてツアーに誘うのをためらう人たちが多い中、積極的に声をかけてくれたのが矢野顕子とミシェル・ペトルチアーニだったという。ネットでいくらでも動画が観られるようになるまで、ライブでのアンソニーが観られる映像作品は数えるほどしかなかったので、DVDでも発売されたこのアルバムは貴重だった。

『Triangulo』:Michel Camilo(2002年)
ラテンも大好きだったアンソニーが、キューバから来た怪物オラシオ・エルナンデスとリズム体を組んだ唯一のスタジオ盤。ラテン/サルサに対するアンソニーの造詣の深さのほどがよくわかる。脳卒中から見事な復活を遂げた後の作品で、以前のような超絶技巧の演奏は聴かれないが、実際にコピーしようとしてみると、この時期の陰影に富んだ演奏のほうがはるかに難しいことがわかる。


坂本 信  Akira Sakamoto
札幌市出身。音楽出版社やレコード会社、楽器メーカーの記事執筆、英文翻訳、数百人のアーティストの取材や通訳を行う。翻訳書は『ビートルズ・ギア』、『ジェームズ・ジェマーソン:伝説のモータウン・ベース』、『レッド・スペシャル・メカニズム』など。また、ベーシストとしては高崎晃やマイク・オーランド、伊東たけしなどと共演。

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