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Monthly EditorialEinen Moment bitte! 横井一江No. 297

#35 2022年の終わりに

text & photo by Kazue Yokoi  横井一江

 

間もなく2022年も終わろうとしている。

コロナ禍以前の「日常」に戻りたい/戻ろうという強い気持ちが、人々の行動パターンから強く感じるこの頃である。新型コロナウイルスだけではなくインフルエンザ流行の兆しも見えるにも拘らず、医療崩壊・救急崩壊にもさほど気にかけているようには見えない。経済を回すという意味では、人出が増えることは、書き入れ時であるだけに商売をする人には歓迎すべきことだろう。とはいえ、皮肉なことにコロナに感染したという話を以前に増して聞くし、私自身少し前に罹患して、後遺症(Long Covid)と思しき症状に悩まされている。コロナ禍は全く終わっていないし、その真っ只中にいることを実感した。と、この文章を書き始めた今も救急車のサイレンの音が聞こえている。

とっくに、ジャズクラブやライヴをやるお店の営業時間は通常通りに戻っているので、ライヴの現場では「日常」は戻ってきているのだろう。それでも、コロナ禍以前に比べると客入りはどうなのか。コロナ禍で急速にストリーミングが普及したが、それがその後の音楽の聴取方法に何らかの影響を与えてはいるのではないか。知りたいところだが、定量的な評価はとんと難しそうだ。コアなファンであれば、以前のように足繁くライヴに出かけるなど、以前の日常をいち早く取り戻しているに違いない。だが、ごくたまにライヴやコンサートに出かけるようなごく一般的なリスナーはどうなのか。彼ら彼女らの動向もまた音楽関連業界全体の売上に大きく関係しているのである。ジャズはある意味、コアなファン層に支えられているジャンルではあるが、それだけにより広範なリスナーへの発信については後手に回ってきたように思うだけに気になるところだ。

今、音楽聴取方法の変化が、さまざまな変化を促しているように私には見える。もちろん、ミュージシャンの表現の場はライヴ/コンサートであり、その本質的なところは変わらない。専門メディアでは公演評以外に、いや、それ以上に作品としての録音物(CD, Vinyl, DL)のレビューを通してその活動が紹介されることが常だった。ところが、今時新譜を追いかけて購入するのはコアなファンに限られてきてはいまいか。Spotifyなどのサブスクリプションを通じて聞くことのほうが普通だろう。それもPlay Listなどで聴かれる場合も多い。となると、録音物の作品性をミュージシャン自身はどう捉えるのか。33回転LPレコードが発売されるようになってから、たかだか70年程の歴史である。果たして、制作面での何らかの変化はあるのだろうか。そうは言っても、そのような聴取形態に馴染まない音楽というのもあることも確かだ。

2022年はAFF2、文化庁の「コロナ禍からの文化芸術活動の再興支援事業」Arts for the future 2!(AFF2)に申請した企画に大きく関わっていたために、その書類作成に多くの時間を費やした年でもあった。申請するには、任意団体といえども収益事業開始届を出す必要があり、そのための手続きを行い、収益事業を開始するということは税制上は法人とほぼ同じ扱いになるため、源泉徴収などの税務手続きも必須になったことから、単なる申請手続き以外の事務手続きにも追われることになった。とはいえ、この制度があったことで、コンサートやイベントを開催する上で経済的に助かった団体は多いだろう。残念ながら、この事業は今年度限りのようである。令和4年度2次補正予算や令和5年度概算要求をざっと目を通したが、該当しそうな項目はなかったからだ。AFFはコロナ対策として打ち出された予算なので打ち切られるのも然もありなんというところである。では、それに代わって文化芸術活動を支援する事業があるのかというと見当たらなかった。文化芸術支援ということでは、一歩後退ということか。

この少し前に、ドイツのメールス・フェスティヴァルから「2024年以降も連邦政府から資金援助を受けられることが決定した」旨のプレス・リリースが送られてきた。2023年までの連邦政府からの資金援助は決まっていたのだが、それ以降は白紙状態だったのである。連邦議会の予算審議で党派を超えて満場一致で2028年までの資金援助が決定したという。メールス・フェスティヴァルは連邦政府の資金援助なしでは、現在の規模での開催は難しい。それだけに、これはこのフェスティヴァルに関わる全ての人への朗報だった。この決定には、メールス市出身の連邦議員ヤン・ディーレンがいたことも大きかったに違いない。彼の言葉「特に危機の時代において、文化や教育は支援されなければならない」、このような考えを持つ政治家がいること自体羨ましいだけではなく、国家における文化の位置付けの違いを感じたのだ。

このようなことをあれこれ考えていた折、土取利行の添田唖蝉坊・知道を演歌する『大正の流行風邪(スペイン風邪)・流行歌(演歌)』公演(1月8日、シアターΧ、→リンク)のお知らせを手にした。この批評的な視線による風刺、そして諧謔精神、今の時代にこそ必要なのではないだろうか、と思ったのである。

2023年が良き年になりますように。

横井一江

横井一江 Kazue Yokoi 北海道帯広市生まれ。音楽専門誌等に執筆、 雑誌・CD等に写真を提供。ドイツ年協賛企画『伯林大都会-交響楽 都市は漂う~東京-ベルリン2005』、横浜開港150周年企画『横浜発-鏡像』(2009年)、A.v.シュリッペンバッハ・トリオ2018年日本ツアー招聘などにも携わる。フェリス女子学院大学音楽学部非常勤講師「音楽情報論」(2002年~2004年)。著書に『アヴァンギャルド・ジャズ―ヨーロッパ・フリーの軌跡』(未知谷)、共著に『音と耳から考える』(アルテスパブリッシング)他。メールス ・フェスティヴァル第50回記。本『(Re) Visiting Moers Festival』(Moers Kultur GmbH, 2021)にも寄稿。The Jazz Journalist Association会員。趣味は料理。当誌「副編集長」。 http://kazueyokoi.exblog.jp/

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