ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント2021のテーマを変更
〜光と至福の美:バッハとモーツァルト
Text by Hideo Kanno 神野秀雄
Cover photo: ©Marc Roger
東京・丸ノ内でGWに開催されて来たラ・フォル・ジュルネ。その本家フランス・ナントでは2020年も1月29日〜2月2日に「ベートーヴェン」をテーマに開催され成功裡に閉幕し、2021年のテーマは「ロシア音楽」と発表されていた。「ラ・フォル・ジュルネ・ド・ナント2020」のライブレポートと東京の今後については既報の通りだが、その後COVID-19感染が拡大し、予防のためのソーシャルディスタンスの規則に従うと、演奏可能なオーケストラは最大10〜40人となり、このサイズでは「ロシア音楽」は困難になった。
「ヨハン・セバスチャン・バッハとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトに想いが至りました。バッハのオーケストラ作品は10〜15人で演奏が可能で、声楽作品もバッハの時代にそうであったように、各パートを1人のソリストに置き換えて、合唱なしで演奏可能です。モーツァルトでは、すべてのオーケストラ作品とコンチェルトは、最小限の管楽器を含む15〜40人のオーケストラで演奏可能です。そして、バロックと現代の楽器により、2人の作曲家のすべての室内楽と鍵盤楽器の作品を演奏することが可能です。」とアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンは語る。
「2021年の新しいテーマを『La lumière et la grâce』と定めました。ヨハン・セバスチャン・バッハの『lumière』と、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの『grâce』です。このテーマの中にいま私たちが偉大なる二つの魂に出会うべき理由があります。」
『La lumière et la grâce』は深く豊かな意味を持ち、すべてを表現する日本語訳は難しい。ここでは『光と至福の美』という訳をあてたい。パリに長く住む友人で舞台芸術アドバイザーとして活躍する副島 綾のご教示を受けたもので、副島は次のよう解説する。
「Lumièreは、宗教的なイメージに限られず、聴いたら光に包まれるような、そんな絶大な力を持った音楽という印象を受けます。それに対して、grâceは天女が奏でるこの世のものと思えない音楽、優しいイメージです。un moment de grâceなどと言うと、至福の時間という印象だし、音楽などでgrâceがあるというと、テクニックや表現を超えた、天空から降ってくるような美しき音楽という感じがします。grâceに触れると人間そのものが昇華するような、そんな強いイメージがあります。lumière et grâceというと、光に包まれてgrâceで浄化される、つまりウイルスが取り除かれ、ウイルスによって荒んだ心も清められる、そんなイメージを受けますね。」
L: ©Marc Rogerb R: ©Hideo Kanno
L: ©Hideo Kanno R: ©Marc Rogerb
なお、このテーマ決定は、本家フランス・ナントのものであり、「ラ・フォル・ジュルネTOKYO 2021」の開催とテーマ決定ではないことをご留意いただきたい。株式会社KAJIMOTOの梶本眞秀社長はCOVID-19が落ち着いた場合には2021年の開催に前向きに取り組みたい意志を表明しており、3月の段階では『ベートーヴェン』での2021年開催を意識していた。最近では前年秋に開催が発表されることが多いが、年始に向けて東京国際フォーラム、三菱地所とともに慎重に検討を進めて行くものと推測される。
「この暗い時代の先にあるイベントの開催には、慎重で智恵を結集した検討が重要です。オープンで、結束し、リスペクトに溢れた環境の下で開催される市民的なフェスティヴァルを信じて実現することが必要です。言うまでもなく文化は私たちの社会の基礎となり大切な役割を果たします。ナントで会いましょう。」とジェネラル・ディレクターのジョエル・カリヴァンは語った。
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