#011『中上健次/破壊せよ、とアイラーは言った』
text by Kenny Inaoka 稲岡邦彌
タイトル:『破壊せよ、とアイラーは言った』
著 者:中上健次
初 版:1979年8月10日
出版社:集英社
腰巻コピー:
現場から--成田空港、レゲエ、石原慎太郎、韓国、テルオ・中村 熱をはらむさまざまな現場や、同世代の人間が抱くエネルギーと、作家の類い稀な感性が響きあう・・・「週刊プレイボーイ」連載の好評エッセイ。/ジャズから--アイラー、デビス、コルトレーンらに託し、あふれる熱情に宙吊りにされた自らの青春を語る---。著者18歳の処女作品「赤い儀式」を収録。
小野好恵の『ジャズ最終章』収録の名エッセイ「二つのJAZZ・二つのアメリカ--中上健次と村上春樹」に触発され本書を読み返していたところ、アイラーのボックスセット発売のニュースが入った。中上が「岬」で戦後生まれ初の芥川賞を受賞した直後にスタートした「週刊プレイボーイ」連載のエッセイ(RUSH)と「青春と読書」連載のエッセイ(破壊せよ、とアイラーは言った)の2部から成る。中上の青春はジャズと共にあった。しかもアイラーの<フリー・ジャズ>と共に。小野が指摘するように「歴史上のフリー・ジャズは終わったが、精神としてのフリー・ジャズは中上健次において生き続け、むしろ中上によって戦線は拡大すらした」。このノーベル賞を待望された作家にフリー・ジャズがどれほど決定的な要因として作用していたか、本書と小野の前掲書を併せ読む時さらに明確になる。アイラーの死後何年か経ってニューヨークを訪れた中上は、自らの青春を総括するとともに音楽的コードと同時に社会的コード(法・制度)をも破壊せよと吹いたアイラーのフリー・ジャズが歴史上の一通過点であったことを再確認する。
アイラーのフリー・ジャズが実存を超えて一時期の中上にとっては作家たらしめる装置としても援用されていたことを考えるとき、本書の中で中上が度々言及する「アイラ-の死体が浮いたハドソン川」という誤解をことさらあげつらうこともないだろう。それはジャズ・ファン周知の”イースト・リバー”であった。史実は、上記のボックスセットに同梱のテキストにもある通り、「アルバート・アイラーは、1970年11月25日の朝、イースト・リバーはブルックリン、コングレス・ストリート・ピア(埠頭)で回収された」のである。
*初出:JazzTokyo #12 (2005.1.9)