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CD/DVD DisksNo. 216

#1287 『みるくゆ/板橋文夫FIT!+類家心平・纐纈雅代・レオナ』

text by Yumi Mochizuki 望月由美

MIX DYNAMITE MD-018 2500円

diskunion

板橋文夫(p)
瀬尾高志(b)
竹村一哲(ds)
スペシャル・ゲスト:
類家心平(tp)
纐纈雅代(as)
レオナ(tap dance)

1. さとうきび畑(寺島 尚彦)
2. 美ら海を汚すな! (板橋文夫)
3. テンヤワンヤ (板橋文夫)
4. 転んだ! 転んだ! 転んだ後の杖 (板橋文夫)
5. しゃがみ込む、そしてまた明日を生きる (板橋文夫)
6. Aldan-Maadyr(瀬尾高志)
7. F.U.K.U.S.H.I.M.A (板橋文夫)
8. EAST~毎日が革命だ~ (竹村一哲)
9. チバリヨーうちなー! (板橋文夫)

プロデューサー:板橋文夫
レコーディング&マスタリング・エンジニア:小川洋
カヴァー・アート:堀越千秋
録音:2015年6月22,24、25日 野木エニス小ホール

板橋文夫の書く曲にはストーリー性があり、曲ごとにそれぞれの物語が浮かび上がり、そしてそれらが集まって「FIT!+special guest」の短編集が出来上がった。

アルバム『みるくゆ/板橋文夫FIT!+類家心平・纐纈雅代・レオナ』(MIX DYNAMITE)は昨年秋にリリースされ、「JAZZ JAPAN」誌や「JAZZ LIFE」誌でもインタビュー記事が大きく取り上げられた。本誌「JAZZ TOKYO」でもすでに齊藤 聡さんが「FIVE by FIVE」# 1268で取り上げられ(http://archive.jazztokyo.org/images/common/five_bn.jp)、アルバム・タイトルの「みるくよ」の意味や沖縄・辺野古や福島・原発など社会の不条理に立ち向かう反骨の音楽家としての板橋文夫についてお書きになっていらっしゃるのでここではFIT!の第三弾としてとり上げさせて頂いた。

板橋文夫FIT!の通算3作目は栃木県の小ホールでの録音。今回はFIT!の3名に加えてゲストに類家心平(tp)、纐纈雅代(as)、レオナ(tap dance)の3名が参加し音のいろどりがより華やか、鮮やかになり輝きを増している。
前作の『2nd Step』(MIX DYNAMITE)ではモンク、ミンガス、ダラー・ブランドといったジャズの巨匠たちの古典をFIT!の若い力で今に蘇らせたが、今回は1曲(1)<さとうきび畑>を除きすべてFIT!のオリジナル曲に統一しFIT!の個性を際立たせている。

トランペットとアルト・サックスの2管に3リズムという編成は「DIZ & BIRD」「ジャズ・メッセンジャーズ」「マイルス・クインテット」等々ジャズの王道をゆく編成であるが、テーマのあとに各人のソロを回してまたテーマに戻って終わるという当たり前のルーティンにとらわれることなく、しいて言えばミンガスやジョージ・ラッセルのワークショップのように自由な発想で構成、演奏されているのでまったく新しい板橋ワークショップが楽しめる。

(1)<さとうきび畑>は「ざわわ、ざわわ、ざわわ」というフレーズで知られる唄であるがここでは唄はなく6人での演奏。板橋がゆっくりしたテンポで原曲をくずさずに弾く。板橋の手になる<ざわわ>はやさしさに満ちている。そしてその後を類家がやはり加工せず原メロディーを吹き纐纈がつないでゆく。板橋はアルバムのライナーノーツのなかで沖縄戦での死者への悲しみを訴えているが、アドリブなしでメロディーだけを紡ぐという構成に板橋のこの曲への想いが伝わってくる。
(2)<美ら海を汚すな!>では一転して激しいピアノの連打、アルトのいななき、トランペットの咆哮が入り乱れドラム、タップが床を打ち鳴らし激しい嵐をまき起こしたあと板橋のいつになく穏やかなピアノ・ソロが現れるがその落差に驚く。アルト、トランペット、ベースのソロを交えて板橋の大らかなピアノに戻る。意表を突くアレンジに板橋の辺野古への思いが込められているのかもしれない。
(4)<転んだ! 転んだ! 転んだ後の杖>はユニゾンでテーマを演奏したあと(tp)と(as)の会話が繰り広げられる。ミンガスはドルフィーとテッド・カーソンに会話を求めたが類家と纐纈の対話も諧謔に富んでいて面白い。
類家心平(tp)は「板橋文夫オーケストラ」や「森山・板橋クインテット」で板橋と一緒に演奏、アルバム『STRAIGHTEDGE/ストレイトエッジ』(PIT INN MUSIC、2014)にも参加していて板橋との共演歴は長く、板橋の構想を熟知した上で溌剌とした演奏を展開している。

一方の纐纈雅代(as)は自己のグループ「Band of Eden」、「鈴木勲oma sound」や「渋さ知らズオーケストラ」等の活動で知られているが、「板橋文夫オーケストラ」では類家と一緒に演奏している仲間である。以前、林栄一(as)とのアルト・マドネスで林と堂々と渡り合うステージにびっくりさせられたことがあるが、ここでも林ゆずりのパンチのきいた活きの良いフレーズを連発する。

類家と纐纈の会話のあと、演奏は板橋とタップとの対話に移ってゆく。カーンと響くタップの音と板橋のピアノの鍵盤が共鳴しあい二人で遊んでいる。
これまでタップ・ダンスにはあまり接したことがなく、せいぜいサミー・デイヴィスJRやジーン・ケリーなどショー・ステージで見る程度であったが、数年前、ビートたけしのNHK・BS『だれでもピカソ』でビート・たけしがニューアークのセビアン・クローバー(tap dance )のスタジオを訪ね、そこでコルトレーンのアトランティック時代の『COLTRANE JAZZ』(1959 ATLANTIC)と最晩年の『STELLER REGIONS』(1967 IMPULSE!) をタップで切り分けて表現するのを見て、タップがドラムと同レベルで音楽表現が出来ることを知りびっくりしたことがあったが、ここでのレオナもFIT!と丁々発止と渡り合っている。レオナはジャズの分野では板橋文夫(pf)、瀬尾高志(cb)と組んだ 「濤踏 〜TOTO〜」や石田幹雄(p)、中村達也(ds)などと共演をしている。

「板橋文夫FIT!」がファースト・アルバムを録音したのが2011年4月11日、東日本大震災から一か月後のことであった。アルバム『New Beginning』(MIX DINAMITE)には板橋の言葉で「共に新たな出発を!禱!」と記されていた。日本の始まりであり、「板橋文夫FI T!」のスタートであった。
そして2014年FIT! は軌道に乗り『2nd Step M・N・A・B・U・I』(MIX DINAMITE)を録音、いよいよ機の熟したFIT! はさらなるパワーアップを求めてゲストの3人を加えて全国を行脚している。
板橋文夫のひたむきな行動力の源が瀬尾高志(b)、竹村一哲(ds)との「FIT!」である。この若い二人の成長が板橋の喜びであり、さらなるステップへの原動力である。地域密着型の「板橋文夫FIT!」は明日もまっすぐ前を向いてひた走っていることだろう。

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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