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CD/DVD DisksNo. 312

#2308 『The Bass Collective / 瞬く森』

Text by Akira Saito 齊藤聡
Photos by Akira Saito 齊藤聡 and Tatsunori Itako 潮来辰典 (noted)

キングインターナショナル

The Bass Collective
Kazuhiro Tanabe 田辺和弘 (contrabass)
Takashi Seo 瀬尾高志 (contrabass)
Masao Tajima 田嶋真佐雄 (contrabass)

Disc 1
1. 森の扉
2. ただ月をながむる
3. タンゴ・エクリプス全三章
4. Improvisation I
5. Echoes of Moonlight
6. Improvisation II
Disc 2
1.アルダン・マードゥル
2. Improvisation III
3. 白い梟
4. Improvisation IV
5. 逆夢のブーゲンビリア
6. 待春
7. 瞬く森 (Improvisation)
[Disc 1] 2 [Disc 2] 2, 5 composed by Kazuhiro Tanabe(田辺和弘)
[Disc 1] 4,5 [Disc 2] 1 composed by Takashi Seo (瀬尾高志)
[Disc 1] 1 [Disc 2] 3,4,6 composed by Masao Tajima(田嶋真佐雄)
[Disc 1] 6 [Disc 2] 7 composed by Kazuhiro Tanabe, Takashi Seo, Masao Tajima
[Disc 1] 3 composed by Tetsu Saitoh (齋藤徹)

Produced by Shinya Fukumori(福盛進也)
Recorded at Sekiguchidai Studio, Tokyo October 21 & 22, 2023
Recording & Mixing Engineer: Yuichi Takahashi
Assistant Engineer : Tomoya Nakamura
Mastering Engineer : Shinji Yoshikoshi
Cover & Liner Drawings : Maeko Sato
Design : Yume Satou
A&R : Masayasu Hanai (hanai studio)
Production Management : Yuji Hirashima (King International)

コントラバスという楽器は単数でも複数でもある。幅広い周波数の葉叢を発生させるだけに、その音にはひとりの演者の意思を超える匿名性がある。また、矛盾するようだが、同時に演者の個性がもろにあらわれる。田辺和弘、瀬尾高志、田嶋真佐雄はそれぞれに自身の音を追い求めてきた者たちであり、なおさらのことだ。もちろん、その個性には楽器の特性も含まれる。かれらはみな長い物語をもつコントラバスを使い、ガット弦を張っている。英国の打楽器奏者ロジャー・ターナーに言わせれば、ガット弦とはかけがえのない「オーガニック」なもの。

そんなわけだから、三者三様の強い個性があるとはいえ、キャッチフレーズのように簡単に説明することは容易でない。勝手ながらあえて感じるところを挙げてみるならば、田辺には圧倒的な演奏技術を背景とした奥深さがある(聴こえる音の向こう側にもなにかがありそうな)。瀬尾には対照的にその場かぎりの一期一会の音を放ち続けるたいへんな強靭さがある。田嶋には大きなものを受け容れて大きな音楽にせしめる柔軟さがある。

本アルバムには、森や月をモチーフとして作られた曲がいくつも収められている。田嶋はレコ発ライヴ(2024/3/2、ソノリウム)のパンフレットに「コントラバスというこの大きな楽器は、見た目も音もどこか森の一部を切り取ってきた感じ」と書いている。コントラバスとはまさに葉叢であり、森であり、その土地の自然であり、そして遥か遠くにありながら此岸の者たちを照らす大きな月でもある。おそらくそのようなイメージが共有されている。

<森の扉>はその森のようにおおぜいの生き物が静かに息をする生物多様性の音風景。<ただ月をながむる>での田辺のアルコは聴く者を沈思黙考に誘うような深遠なものだ。<Echoes of Moonlight>からは生の悦びを感じ取ることができる。ここでの芯が強く色気のあるピチカートは瀬尾によるものだろうか。梟は森の賢人、<白い梟>は長いことかれらにインスピレーションを与えてきた画家の小林裕児の依頼によって生まれたという。小林の作品世界がそうであるように、弦の響きがすばらしいバランスを保って空中を浮遊しているようだ。瀬尾が冬の厳しい寒さをイメージして書いたという<アルダン・マードゥル>は人びとが強く生きるイメージを喚起する。

アルバムの中でもひときわ激しい曲<タンゴ・エクリプス全三章>は齋藤徹の手になる。もとよりこのグループが結成されたきっかけは、齋藤からの誘いだった。北海道においてコントラバスを主役に据えた独自の活動「漢たちの低弦」を展開していた瀬尾、齋藤の音を聴いて大きな刺激を受けていた田嶋と田辺、それにパール・アレキサンダーを加えて決済されたコントラバス奏者5人のグループは、のちに「ベースアンサンブル弦311」と命名された。齋藤は最後に田嶋、田辺、瀬尾の3人とともに録音をしておこうと考えたが、それはリハーサルのいちど限りで終わった。録音を予定していた日が齋藤の通夜となってしまい、だからこそ多忙な3人がその場に集まり、この曲を演奏できたのだ。現在はオリジナルを中心に独自のサウンド形成を展開しているとはいえ、その音楽的ルーツのひとつとして齋藤の曲を演奏することには大きな意味があっただろう。演奏の中で音価を長く弓で弾くとき、エネルギーが解き放たれて大きな悦楽に転じる(レコ発ライブにおいても瀬尾が破顔していたことが印象的だった)。

<逆夢のブーゲンビリア>には美しい旋律を倍音とともにあの大きな楽器で奏でる魅力がある。<待春>は田嶋が自身のコントラバスソロアルバム『Self Portrait』でも演奏しており、柔らかさゆえのここちよい揺れ動きがあった(2枚目の最後から2曲目に置くという共通点にも、曲想ゆえの意図があるのかもしれない)。そしてこちらにはざわめき、それから二人、三人が重なるときの交感の雰囲気がある。

いま「ベースアンサンブル弦311」が残したアルバム『Live at Space Who』を聴きなおすとなにものかの意思が音に化け続ける力に圧倒されるのだが、『瞬く森』にも異なる様態の集団意思がある。そのちがいは足し算ではない。すなわち3人以外のコントラバス奏者たちがいるかいないかによるものではなさそうに思える。おそらく、The Bass Collectiveがあらたな世界を創出していることが、その答えだろう。

(文中敬称略)

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齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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