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CD/DVD DisksNo. 323

#2370 『桜井郁雄クインテット/Local Train』

text by Yoshiaki ONNYK Kinno  金野ONNYK吉晃

地底レコード111F  ¥2,750(税込)

桜井郁雄 bass
清水絵理子 piano
藤井信雄 drums
福本陽子 alto sax
天野丘 electric guitar, acoustic guitar

1. Turn
2. Wondering disorder
3. Capybara walk
4. 7-B
5. One more
6. 陽光
7. On the rocks
8. 10-B
9. T.T.K.
10. Ivory black
11. Tree flog
12. Bordeaux purple~May

All composed and arranged by Ikuo Sakurai
Recorded by Keiichi Sato @Groove Studio, Matsudo, September 23, 2024
Mixed and Mastered by Yoshiaki Kondo@Gok Sound, Ichinowari
Produced by Ikuo Sakurai


アナログレコードは、石油を加工して薄い円盤状にしたものだ。その盤上に細い溝、すなわちグルーヴを圧接し、そこから別の意味でのグルーヴを再現した。
ちなみに化石燃料は「地底」から採掘、ディグされる。
つまり音楽のグルーヴ感は、地底からやって来る。

地底レコードの「LOCAL TRAIN」、その含意は「各駅停車」。それは大都市間を、できるだけ短時間で結ぼうという発想ではない。生活に密着し、自然と農地と町並みを眺める。いつも乗り合わせる人、馴染みの駅員と挨拶を交わす。思考しながらの移動。
鉄道や駅。それはジャズという様式と相まって慰撫と興奮を醸すだろう。A列車に乗って行くのもいい。
何故相性がいいのか。かつて列車は化石燃料で走行していたから。それだけではない、列車の持続的な振動、走行音。それは線路の上を走る車輪が齎すのだが、あたかも盤上の溝を走る針のようでさえある。どちらもグルーヴとノリを与えてくれる。あるいはスウィングともいえる。そしてこのスウィング、ノリ、グルーヴこそが目的化し、移動そのものよりも好まれる。
「LOCAL TRAIN」が、目的地への最短コースを求めるのではないように、ジャズは何と言う曲をやるかよりも、演奏そのものを楽しむノリ物。

さて、残念ながら「LOCAL TRAIN」は溝ではなく、光で唸らせる(CDだから)。そういや、かつて世界最高の速度と安全を誇る新幹線は、「ひかり」として登場したのだった。
「LOCAL TRAIN」は地底から導かれたが、その発掘場所はこの惑星上の北半球の小さな弧状列島だ。
リーダー櫻井郁雄の技術、感覚、人格が全体を統一しつつ、参加者達を自由にしている。彼は弧状列島のジャズ界では、非常に経験豊富な、いわゆる「ヴァーチュオーソ」「ヴェテラン」「達人」である。それは彼の出すオト自体の深みで感得できるだろう。
アンサンブルという集団を、1人の人体に喩えよう。
その骨格は櫻井のベースである。拍動する心臓は藤井信雄のドラムである。全身を駆け巡る血は天野丘のギター。そして清水絵理子のピアノは瑞々しい内蔵であり、呼吸と声は福本陽子のサックスに託される。
この生物は、ある瞬間完全である。しかし次の瞬間、それは消え往く。そして次の瞬間で復元する。あるいは「再生」する度に、再生する。
この発生と消滅、同化と異化、動的平衡。そのエネルギー源はどこからやってくるのか。それはアンサンブルを成す各演奏者の親和性に由来するだろう。
ジャズの価値は何か。即興という一連の逸脱行為、非直接的な意味、つまり抽象化された音響を、作品として記憶出来る驚異である。
演奏は、音楽は、コトバに依存しないアート、文化である。
追求すべきは、商品ではなくして文化である。
CDやレコードといった物質的媒体は文化財である。それはダウンロードするデータではなく、そのサウンドとともにヴィジュアル、手触り、匂いを吟味するべき考古学、そして考現学の資料なのだ。
コトバは意味の変容が起きる。演奏は直接的に認識される。
ニンゲンの文化財を保存し、顕彰し、検証すること、それは内的深淵、地底への飛翔(エラン)である。
まずジャズを通じて、我々は可能な限り生命力を抽出しなければならない。

金野 "onnyk" 吉晃

Yoshiaki "onnyk" Kinno 1957年、盛岡生まれ、現在も同地に居住。即興演奏家、自主レーベルAllelopathy 主宰。盛岡でのライブ録音をCD化して発表。 1976年頃から、演奏を開始。「第五列」の名称で国内外に散在するアマチュア演奏家たちと郵便を通じてネットワークを形成する。 1982年、エヴァン・パーカーとの共演を皮切りに国内外の多数の演奏家と、盛岡でライブ企画を続ける。Allelopathyの他、Bishop records(東京)、Public Eyesore (USA) 等、英国、欧州の自主レーベルからもアルバム(vinyl, CD, CDR, cassetteで)をリリース。 共演者に、エヴァン・パーカー、バリー・ガイ、竹田賢一、ジョン・ゾーン、フレッド・フリス、豊住芳三郎他。

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