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CD/DVD DisksJazz Right NowNo. 329

#2396 『デイヴ・モス / In Her Dream』

Text by Akira Saito 齊藤聡

Park West Records
https://parkwestrecords.bandcamp.com/album/in-her-dream

Dave Moss (double bass)

1. Murder of the Enlightened Ones (based on the death of Hypatia)
2. Maintaining Frequency in the Face of the Shadow
3. Maverick Like
4. Responding to Responsibility
5. To Live,Not Just Survive
6. A Way out
7. Tremors

released April 20, 2023
Mixed/Mastered by Jim Clouse @ Park West Studio, Brooklyn NY
Cover art by Rea Komatsu Moss (4 years old)
Designed by Moto Komatsu

コントラバスは不思議な楽器で、大きな共鳴胴を活かして太く低い音から特殊な効果音までをじつに幅広く出すことができる。集団演奏の主役を張ることができそうなものだが、実際のところそのような演者は多くはない。コントラバスソロのアルバムをものした人はさらに少ない。だが、それゆえに個性を凝縮したような傑作が残されている。バール・フィリップスは楽器に遺された記憶を掘り起こすかのような香り高い音。吉沢元治は醜くも美しくもある情念を焼き付けた音。齋藤徹の音からは世界と同一化せんと不可能な試みを続けた気が伝わってくる。マーク・ドレッサーは狙いすました音の抽出と増幅により時空間に絵を描いた。デイヴ・ホランドは大きい楽器で軽々とダンスする。それぞれの音は驚くほど異なる相にある。

これらのレジェンド級の演者たちによるソロを参照してもなお、デイヴ・モスの本アルバムは個性的に聴こえる。硬質な共鳴板があるような響きは、それだけで、独自の音の抽出を成立させている。聴く者は抽出された音に耳をそばだてることになるだろう。その先にあるものは倍音を生み、その倍音はすこしずつ遷移して旋律を描いてゆく。まるで虹のようだ。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。linktr.ee/akirasaito

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