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CD/DVD DisksNo. 329

#2395 『塩谷 哲/Orchestra Works I』
『Satoru Shionoya / Orchestra Works I』

Text by Hideo Kanno 神野秀雄

『塩谷 哲/Orchestra Works I』
『Satoru Shionoya / Orchestra Works I』
「Elegy for Piano and Orchestra」
(2023年)
第1楽章: Darkness, Sadness, Unreasonableness
第2楽章: Deep in Thought,A Ray of Hope
第3楽章: Rondo for A Dream
第4楽章: Finale for Future
2024年5月25日 日本製鉄紀尾井ホール
東京21世紀管弦楽団 / 指揮:米田覚士

「Preciousness」(2009年)
2021年10月17日 茅ヶ崎市民文化会館大ホール
神奈川フィルハーモニー管弦楽団 / 指揮:沼尻竜典

Produced by Satoru Shionoya
Earth Beat: EBAL-001
塩谷 哲 公式ウェブサイト 購入ページ
発売元:ディスク・ユニオン

ジャズ、クラシックからJ-Pop、テレビ番組音楽まで幅広く活躍する塩谷 哲の初のオーケストラ作品集アルバム。塩谷 哲といえば、世界的に注目を浴びたサルサバンド「オルケスタ・デ・ラ・ルス」からキャリアが始まったようにも見えがちだが、そもそも、1985年に東京藝術大学音楽部作曲科に在学していた(同級生に川村結花、岩城太郎がいる)からオーケストラ作編曲はその原点に戻ることでもある。遡ること、14歳で作曲した<海溝 (A Deep)>がヤマハのジュニア・オリジナル・コンサート1980年優秀作品に選ばれ、エレクトーン版、吹奏楽編曲版とも40年以上に亘って演奏され愛され続けている。藝大での現代音楽中心の教育にギャップを感じるようになり、国立音楽大学ジャズ研に出入りし、次第に布施 威(ds、作編曲家、布施音人の父)、五十嵐一生(tp)らと新宿ピットインなどに出演するようになり、知り合った大儀見元に誘われて「オルケスタ・デ・ラ・ルス」へ参加という流れだ。そして1993年に『SALT』でアルバムデビューする。

アルバムデビュー30年後の2023年7月29日に「塩谷哲デビュー30周年 塩谷哲×東京フィルハーモニー交響楽団」(川瀬賢太郎指揮、埼玉・RaiBoC Hall 市民会館おおみや 大ホール)が開催され、それに向けて”書き下ろしの一曲”が作曲されることになった。塩谷のオーケストラ熱の高まりには、「N響JAZZ at 芸劇」に於ける、ジョン・アクセルロッド指揮、NHK交響楽団とのプロジェクトへの参加が大きかったという。ジョンは、1966年3月28日テキサス州ヒューストン出身で、6月8日生まれの塩谷哲と同い歳。ハーバード大学を卒業後、指揮をレナード・バーンスタインに師事。ジャズとそのオーケストレーションを、塩谷がこよなく敬愛する、ライル・メイズに師事している。また、NHKの番組「コレナンデ商会」の音楽制作に携わったことも塩谷の作編曲の幅を大きく広げたことは間違いない。

N響JAZZ at 芸劇 2017
N響JAZZ at 芸劇 2018
塩谷 哲 “Forward” the premium piano concert ~special guest 小曽根 真~(2013年11月30日)

本作のメインとなる<Elegy for Piano and Orchestra>についての塩谷の解説を紹介したい。
「全くのゼロから作曲し始めたものの、その初期の段階でどうしても以前書いたある曲が頭を離れませんでした。それが小曽根真氏とのピアノ・デュオ・コンサートの為に書いた『交響的エレジー』という曲です。2台のピアノで如何にシンフォニックな表現をするかがコンセプトであり、どうしても頭から出ていってくれないその曲を、それならしっかりオーケストラ曲として作り直そうと思い、全4楽章形式の作品に仕上げました。」

<第1楽章 Darkness,Sadness,Unreasonableness…>
この世界を覆う深い闇、哀しみ、理不尽さ。今を生きる難しさと、これから起こることへの不安。
<第2楽章 Deep in Thought,A Ray of Hope>
考えても考えても答えは見つからない。そこへファンファーレと共に一筋の希望の光が差し込む。が、すぐにまた元の迷宮に戻ってしまう。
<第3楽章 Rondo for A Dream>
暫しの現実逃避。回転木馬のように繰り返される同じメロディー。一時は祭りのような昂揚感、恍惚感も得るのだが・・・。A-B-A-C-A-B-Aの構成を持つロンド形式による楽章。
<第4楽章 Finale for Future>
各楽章の主要モティーフの回想を経て第1楽章が少し違う形で再現される。現実の厳しさは変わらないが、自分たちが変わることで未来を変えることができる。強い意志を示し曲が帰結する。

ソロデビュー30年周年記念コンサートでの初演後、若干の改訂を施し2024年5月25日に東京21世紀管弦楽団(米田覚士指揮)によって再演されたライブ音源を収録している。

<Preciousness>は、ピアノソロアルバム「solo piano=solo salt」に収録されている曲のピアノ+ストリングス・ヴァージョン。「貴重なこと」「尊さ」という意味を持ち、塩谷の音楽への慈しみ、感謝の気持ちを表現している。沼尻竜典の指揮だが、塩谷の中学校合唱部の先輩でもあるマエストロとの共演となり感慨深かったという。

『塩谷 哲/Orchestra Works I』となっているからIIやIIIにも期待。いや塩谷が自らに期限付きの課題を設けているのかも知れない。ともあれ、塩谷のまだ聴いたことのない音楽をオーケストラで聴くことを楽しみにしたい。

【JazzTokyo – 塩谷 哲 寄稿記事】
ECM: 私の1枚 『Keith Jarrett / My Song』
私の中のチック・コリア
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神野秀雄

神野秀雄 Hideo Kanno 福島県出身。東京大学理学系研究科生物化学専攻修士課程修了。保原中学校吹奏楽部でサックスを始め、福島高校ジャズ研から東京大学ジャズ研へ。『キース・ジャレット/マイ・ソング』を中学で聴いて以来のECMファン。Facebookグループ「ECM Fan Group in Japan - Jazz, Classic & Beyond」を主催。ECMファンの情報交換に活用していただければ幸いだ。

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