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CD/DVD DisksNo. 331

#2405 『Hermon Mehari & Tony Tixier/SOUL SONG:ハーモン・メハリ&トニー・ティクシール/ソウル・ソング』

text  by Keichi Konishi 小西 啓一

©️KOMOS 2025- KOSO42LP

販売:bandcamp (LP販売:オフィシャル・ホームページより購入可能,€8 +送料)
配信 Spotify, Apple Music, Deezer

Side A
A1. Mainoun(Stanly Cowell)
A2. The Black Messiah(George Duke)
A3. Fireside Improvisation(Hermon Mehari/Tony Tixier)
A4. This Is Our Fantasy(Hermon Mehari)

Side B
B1. Poem For Oppressed(Tony Tixier)
B2. Fireside Improvisation 2(Hermon Mehari/Tony Tixier)
B3. Hello To The Wind(Joe Chambers)
B4. Laini(Marius Cultier)

Trumpet: Hermon Mehari
Fender Rhodes: Tony Tixier

A&Rr: ANTONINE RAJON
Sound Engineer :CHRISTIAN HIERRO
Analog  recording on 1/2 inch tape at Antoine’s Burgundy home on the 12th November2024,no edit, no overdub
Analog mix and mastering at Christian’s Back to Mono studio in Lyon in November 2024
Vinyl cut by Marie Pieprzownik at Translab, Paris
Manufactured on audiophile 180 gm high quality virgin vinyl by GARCIA & CO. Marciac, France
Photo by PHIPPE CIBLILE
Layout by LEA MARTIN
Typography by VIOLAINE & JEREMY
Contact @komos.fr


一般のジャズ・ファンには、その知名度未だしの感もあるが、こと”Jazz Tokyo”の読者にとっては、かなりおなじみの存在とも言える、ジャズ・シティー~カンザス・シティーから巣立った(生地はテキサス州ダラス/1987年5月)俊才トランペッター、ハーモン・メハリ。その新作はイタリア人ピアニストとのデュオ『アーク・フィクション』(2021年)以来2枚目になるデュオ作品で、タイトルは『ソウル・ソング』。リリースはアナログ盤と配信のみでCDは無し。
そのメハリの本邦での紹介には、“カンザス・ジャズ女史”こと竹村洋子さん(本誌で『ジャズ・ア・ラ・モード』も連載)の貢献度大なのだが(デビュー作『ブリュー』以下リーダー作の殆どをJazz Tokyoで紹介)、現在の彼は自身を成長させたカンザスシティーを飛び出し、ジャズ活況地のロンドンと並び、今や“パン・アトランティック・ジャズ”の一拠点とも言えそうなパリ、その街に居を移し同市やカンザスシティー、さらには欧州各地などを自在に往来、活発な演奏活動を展開し続けている。
その彼の良点と言えば、原点であるカンザスシティー・ジャズ、その伝統もしっかり受け継ぎつつ(デビュー作など)、それを基軸に様々な分野へ(自身のルーツ~エリトリア音楽やパン・アトランティック的楽園音楽など)探究の眼差しを向け、食指を動かし充分な成果を挙げていること。
そんな彼は、デュオ・トークという形式もかなりお気に入りで、実際に米国や欧州でデュオ・ツアーも敢行し続ける。その最初のデュオ作『アーク・フィクション』は、アコースティック・ピアノとの対話で、2人のオリジナルにスポットを当てた全11曲構成だった。それに対し今作はカリブの美麗島、マルティニーク(フランス領)に出自を持ち、彼とは10数年来の友人でもある、仏人キーボード奏者トニー・ティクシールとの対話を記録したもので、アナログ盤ということもあり一曲4分前後、短めのものをA・B面全8曲収録。いささか小振りな作りだが、ここでは自由なインプロ曲を含め2人のオリジナルは4曲、残りはスタンリー・カウエルやジョー・チェンバースなど、1960~1970年代のいわゆる“新主流派”の中でも、実力派ながら比較的地味目なミュージシャンのジャズ・オリジナルや、マルティニークの著名ピアニストの楽園風ナンバーも取り上げるなど、その選曲の妙も仲々に興味深いところ。
ところでこのデュオ2作、メハリのデュオ相方が変わっていることは前述のとおりだが、主役の2人がインティメイトに交感し会話するその親和性など、アルバムの基本コンセプトはほとんど変化なしと見て良い。またメハリのペット自体も、フレージングなどに鋭利さや艷やかさの度合いを増し、成熟・伸長ぶりを明快に窺わせてくれる。だが何より今回大きく異なるのは、エレクトリック・ピアノとの共演という点。それだけに対話の肌触りも前回とはかなり変化しており、ここでは“今ドキ”感覚にアンビエント的な風合いも加味され、彼のペットもエレピの作り出すより大きな音空間の中で生かされ自在に羽ばたき、さらなる際立ちでも魅せる。ぼく自身は彼の“心の唄”を記したこのデュオ集、それなりに心地よく受け止めはした。だがいかんせん“エレピ”という楽器のサウンド、今イチ苦手…なので、果たして良き聴き手になり得たかどうか…。ただ卓抜なキーボーディスト=ジョージ・デュークの壮大なジャズ・オラトリオ、<ブラック・メシアン>(キャノンボール・アダレイ・グループでのライブ盤有り)を、趣きをガラッと変えた、鮮やかなデュオ曲へ仕立て直したり、ラストのマルティニーク風楽園ナンバー<ライニ>での、彼のペットとエレピの軽やかにして鮮やかな絡み合い等、才人メハリの感性と技に感服する部分も多だった。
多彩さを誇るハーモン・メハリの世界、今後どんな方向で新たな成果を披露してくれるのか…、それもまた愉しみでもある。

ハーモン・メハリ・オフィシャル・ウェブサイト
https://www.hermonmehari.com/

小西啓一

小西啓一 Keiichi Konishi ジャズ・ライター/ラジオ・プロデューサー。本職はラジオのプロデューサーで、ジャズ番組からドラマ、ドキュメンタリー、スポーツ、経済など幅広く担当、傍らスイング・ジャーナル、ジャズ・ジャパン、ジャズ・ライフ誌などのレビューを長年担当するジャズ・ライターでもある。好きなのはラテン・ジャズ、好きなミュージシャンはアマディート・バルデス、ヘンリー・スレッギル、川嶋哲郎、ベッカ・スティーブンス等々。

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