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CD/DVD DisksNo. 331

#2406 『鈴木雄太郎/Beyond the Arctic』

text by Kazune Hayata 早田和音

ETTE001: ¥3.000 (tax in.)

鈴木雄太郎(tp)
Aydin Esen(p)
Alistair Peel(b)
土岐洋祐(ds)

Track List
1.Birds of the air
2.Reflections in D
3.I hear a rhapsody
4.Ballad-ette
5.Stella by starlight
6 Hokago

Recorded by Johan Olsson on June 1st 2025 at Loumi Records Recording Studio (Steinen, Germany)


ディスクをスタートさせると同時に、その世界にすっと引き込まれた。明るい輝きを放ちつつゆったりと空間を漂い始めたピアノの高音部のフラグメントの数々が、互いの音を引き寄せ合うようにして緩やかな3/4拍子のアルペジオの姿になった時、ふくよかさと清涼感を兼ね備えたノン・ビブラートのトランペットが妙なる旋律を奏で始め、続いて浮かび上がってきたベースとドラムとともにたおやかな音空間を描きあげる。

聴く者を忘我の境地に誘う演奏のリーダーである鈴木雄太郎は、1995年・新潟生まれ。中学時代からトランペットを学び、慶應義塾大学ライトミュージックソサエティ(以下:慶應LMS)の一員として山野・ビッグバンド・コンテストで2度の優勝を経験。現在は、自身のソロ活動と並行して小林陽一(ds)&ジャパニーズ・ジャズ・メッセンジャーズへの参加や、布施音人(p)、池本茂貴(tb)、海堀弘太(p)、小沢咲希(p)らとの共演を重ねるジャズ・トランペットのライジングスター。そして本作は、彼が2025年5月~6月にヨーロッパに渡り、ゲイリー・バートン(vib)やデイヴ・リーブマン(ts,ss)との共演でも名高い名ピアニスト、アイディン・エセン、慶應LMS時代からの盟友である土岐洋祐(ds)、スイスの実力派ベーシスト、アリステア・ピールとドイツでレコーディングした待望のデビュー・アルバムだ。

作品を聴き終えて感じるのは、1stアルバムにもかかわらず非常に高い完成度と確固たる世界観を築きあげている点だ。前述の「Birds of the Air」と、広々としたスペースの中でメロディとハーモニーが繊細に変化していく「Ballad-ette」の2曲の美しいオリジナル曲を収録するほか、「I Hear a Rhapsody」「Stella by Starlight」などのスタンダードや、デューク・エリントン作の「Reflections in D」でも、2編の自作曲と同様のオリジナリティを披露。とりわけ、随所から瑞々しさが溢れ出る「Stella~」は、この曲の名演のひとつに加えることができるほどの味わい。作曲と演奏の両面で豊かな才能が発揮されているアルバムとなっている。

早田和音

2000年から音楽ライターとしての執筆を開始。インタビュー、ライブリポート、ライナーノーツなどの執筆やラジオ出演、海外取材など、多方面で活動。米国ジャズ誌『ダウンビート』国際批評家投票メンバー。世界各国のメジャー・レーベルからインディペンデント・レーベルまで数多くのミュージシャンとの交流を重ね、海外メディアからの信頼も厚い。

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