#1398『V.A (大塚広子監修選曲) / PIECE THE NEXT JAPAN BREEZE』
text by Narushi Hosoda 細田成嗣
Key of Life+ – KOL8
- Spur / Les KOMATIS
- Milestones / Racha Fola
- カレーライスを食べにいきませんか?/ Banda Choro Eletrico
- WTRDR Suite 2 Sdoks / Osawa Birdwatcherz
- Spank-A-Lee Jam / NAKED VOICE a.k.a 野良犬
- Actors / 黒田卓也
- The Source / 吉田サトシ
- Green Dolphin Street /Maya Hatch
- RdNet feat. Patriq Moody / WONK
- Prêt / Daiki Tsuneta Millennium Parade
- Porter / Daiki Tsuneta Millennium Parade
- Come on up for a while / M-Swift
- Hopalong Cassidy / 市原ひかり
- Waiting In Vain / 守家 巧
- 風の跡 / 佐藤芳明、伊藤志宏
日本の現代ジャズの入り口
DJ/プロデューサー/文筆家として多方面で活躍してきた大塚広子による、現代日本のジャズ・シーンを取りまとめたコンピレーション・アルバムの第三弾がリリースされた。リリース元は大塚自身が立ち上げたレーベル〈Key of Life+〉である。2014年末に第一弾がリリースされてからほぼ一年おきに制作されてきたこのシリーズは、ロバート・グラスパーを中心とした新たなジャズ・シーンの展開が、とりわけ先ごろ第四弾が出版されたムック本『Jazz The New Chapter』シリーズによって、独自の受容のされ方が進められてきたとも言えるこの日本において、そうした影響を取り入れた、あるいは偶然にも重なり合う方向性を打ち出してきた音楽の動向を、手短に知ることのできる格好の入り口となっている。それだけでなく毎回異なるテーマも設けられていて、「GUIDE」としての第一弾、「NIGHT」としての第二弾に引き続き、本盤では「BREEZE」――ライナーに記された大塚の言を借りれば「多文化都市の風」――に焦点が当てられている。それは単にアルバムを制作するにあたって打ち出されたコンセプトというのみならず、2016年の日本のジャズ・シーンを振り返ってみたときに、そこから大塚がキー・ワードとして取り出した言葉でもあるのだろう。
直接の交流はないかもしれないが、様々な地域から、どこか共振する同時代性を備えた「そよ風」が流れている。それは大塚がそう呼び始めた「今ジャズ」の流れが定着し、ある種の歴史化がなされつつあるいま、それをどのように自らの音楽へと根付かせ、発展させていくことができるのかということが、ひとつのポイントになってきたということでもあるのだろう。ロバート・グラスパー・エクスペリメントからの影響を公言するWONKや、次代を担うドラマー石若駿も参加した常田大希によるプロジェクトDaiki Tsuneta Millennium Paradeなど、2016年には早くもそうした影響を消化し自らの音楽として表現する世代が出来してきている。第一弾、第二弾ともに収録されていた、大塚がプロデュースするユニットRM Jazz Legacyの楽曲が本盤に見当たらないのは、同時期にこのユニットの新たなアルバムが別枠でリリースされたということ以上に、それをコンピレーション・アルバムと絡めるまでもなく、いたるところから「グラスパー的なもの」を血肉化した表現が出てきているということを照らし出しているようにも受け取れる。いずれにせよ本盤は、『Jazz the New Chapter』シリーズがあえて取り上げることのなかった日本の現代ジャズ・シーンに触れてみるための、貴重なリアルタイム・ドキュメンタリー・アルバムである。