#1413『Brandon Seabrook / Die Trommel Fatale』
2017年6月16日CD/LPリリース
New Atlantis Records
Brandon Seabrook (g)
Chuck Bettis (throat/electronics)
Dave Treut (ds)
Sam Ospovat (ds)
Markia Hughes (cello)
Eivind Opsvik (b)
1. Emotional Cleavage
2. Clangorous Vistas
3. Abccessed Pettifogger
4. Shamans Never R.S.V.P.
5. Litany of Turncoats
6. The Greatest Bile Pt. 1
7. The Greatest Bile Pt. 2
8. Rhizomatic
9. Quickstep Grotesquerie
10. Beautiful Flowers
Recorded/Mixed/Mastered by Colin Marston @ Menegroth The Thousand Caves
ブランドン・シーブルックは、ニューヨークの即興・ジャズシーンにおいて、多面的な活動を続けている。2013年に発表したリーダー作『Sylphid Vitalizrs』では、打ち込みのドラムスとともに執拗なバンジョーやギターのリフレインにより、目眩がするような世界を提示してみせた。ドラムス、ベースとのギタートリオ「Needle Driver」では、前のめりなロック/ノイズ色を放っている(2017年10月、New Atlantis RecordsよりCDリリース)。また、アンドリュー・ドゥルーリーの「Content Provider」、アイヴィン・オプスヴィークの「Overseas」といった、よりジャズ的なグループでも、また独特な存在感を発揮している。
人間的なキャラクターは極めて和やかでユーモラスなのだが、そのサウンドは、かれのヘアスタイルのようにユニークに突出し、誰もが注目せざるを得ないものだ。
本盤では、シーブルック自身の他にチェロとベースの弦ふたり、ドラムスがふたり、さらにエレクトロニクスとヴォイス。まるで多数の小型兵器が遠隔操作により四方八方から攻撃を仕掛けてくるような、予測不可能感がある。そしてこの悪夢的とも言えるサウンドからは、かつてシンディ・シャーマンが自らの肉体で作り物の(であるからこその)不安な世界を現出させたことなどを想起させられる。
まずは「Emotional Cleavage」でドローンとともに幕を開け、いきなり全員での丁々発止のインプロに突入、また急に気が変わったようにドローンに戻る。次の「Clangorous Vistas」はまるでB級の恐怖映画であり、シーブルックの歪んだギターやチャック・ベティスの喉を鳴らす叫びによって不安を大袈裟に掻き立てられることが、たまらなく愉快だ。「Abccessed Pettifogger」では、美しくもある弦アンサンブルで始まったと思いきや、急にドラムスやエレクトロニクスが大騒ぎを始める。まったく油断ができない。
続く「Shamans Never R.S.V.P.」はシーブルックのソロに弦がかぶさり、ベティスが囁くヴォイスはまるで幽霊のオラトリオ、ノイズによる励起とともに、来るべきなにものかを予兆させる。到来する曲は、1分弱の壊れアンサンブル「Litany of Turncoats」。そして「The Greatest Bile Pt. 1」では、シーブルックが狂騒的にギターを掻き鳴らし、アイヴィン・オプスヴィークが中音域で素晴らしい和音を響かせるベースと、マリカ・ヒューズの流麗なチェロとがフィーチャーされる。「同 Pt. 2」では様相が変わり、全員が煽る中でギターとヴォイスが社会不安を騒擾する。
「Rhizomatic」の音風景は一転してドラムスのブラッシュワークに基づいたものとなるのだが、シーブルックの遅く歪んだギターは、いちど強く印象付けられた足許の不安定感を拭い去ることを許さない。「Quickstep Grotesquerie」には、全体のサウンドがそうであるように、各人の発する別文脈の音要素がパッチワーク的に組み合わさってゆく快感がある。そして、アルバムは、「Beautiful Flowers」において、まるでこの怖ろしくも愉快でもある騒乱を反芻し、聴く者の記憶に刷り込まんとするかのように締めくくられる。
(本文敬称略)
>> Brandon Seabrook’s bandcamp