#1412 『Blindflug / Without Doubt』
text by Kazue Yokoi 横井一江
Blindflug
Blindflug:
Lauren Newton (voc)
Emanuel Künzi (drums)
Sebastian Strinning (reeds)
- Morphing
- Ways
- Without Doubt
- Knack
- Baden Part I
- Sphärischefische
- Baden Part II
- Baden Part III
- Baden Part IV
Recorded by Eliyah Reichen at Beyond Groove Studio Emmental (1 – 4, 6) and Till Dudda at Jazz geht Baden 2016 (5, 7 – 9)
Mixed and mastered by Christoph Utzinger
All music © 2017 by Blindflug
Produced by Blindflug, compositions by Blindflug
Artwork by Rebekka Schärer, Layout by Emanuel Künzi
Financial support: Stadt Bern, FUKA-Fonds Luzern, RKK
久しぶりにローレン・ニュートンを聴く。
ローレン・ニュートンは、80年代声による表現を拡張してきた先駆者で、その第一人者のひとりである。何回か来日し、佐藤允彦や齋藤徹などとも共演しているので、古くからの即興音楽ファンには知られた存在だろう。本作は、スイスの二人の若手、テナーサックス/バスクラリネット奏者ゼバスチャン・ストリニングとドラム奏者エマニュエル・クンツィーとの「ブラインドフラッグ(盲目的飛行)」というバンドによる全編即興演奏。身体を楽器とし、倍音唱法なども交えながら声そのものを駆使しつつも、時に言葉の断片を挟み込むニュートン。トラック6<Sphärischefische>(例えていうならフグのようなまるい魚を意味する)では Sphärisch (まるい、球(状)の、という意味)という言葉の響き、トラック9でのKuh(牛)という単語を音声的にも効果的に用いたりと、二人とのコラボレーションとも相俟って聴き手の想像力を刺激する。そこにシリアスさだけではないウィットとユーモアを感じて愉快な気持ちになった。現在、即興演奏の場においてはヴォイスを楽器的に用いることは当たり前に行われている。しかし、その場の雰囲気に寄りかかった安直な表現も少なくない。パフォーマンス性も含め、豊かな引き出しから多彩な表現を繰り出すニュートンのような存在は希有だ。即興演奏はもはや新しい表現形態といえないが、ヨーロッパの音楽シーンに根付き、現代の感受性を映し出している。今どきの演奏家らしく技巧的ながらも柔軟性を持つ二人、息音など特殊奏法を交えてインプロヴァイズするストリニング、そしてシンプルなドラムセットを駆使して自在に呼応するクンツィー。時にダイナミックな音像で、時に繊細にテクスチャーを変化させて、アブストラクトな音空間を創出する三者の交歓は、バンド名さながらに未聴のサウンドへの探究心に満ちている。
国内での取り扱いは不明だがBandcamp他で購入可能:
Bandcamp: https://blindflug.bandcamp.com/album/without-doubt
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Reflection of Music vol.34 ローレン・ニュートン
https://jazztokyo.org/column/reflection-of-music/post-4468/
【関連リンク】
ローレン・ニュートンからこのバンドBlindflugで9月に来日をプランしているとの連絡あり。詳細はわかり次第お知らせします。