#1430 『川島誠 / Dialogue』
Text by Akira Saito 齊藤聡
Homosacer Records HMSD-003
Makoto Kawashima 川島誠 (as)
1.Dialogue 19:03
Recorded on June 24, 2017 at Yamanekoken, Ogose, Saitama(埼玉県越生町・山猫軒)
Special Thanks to Toshiko Matsuzaka, Hideo Ikeezumi
2017年8月9日リリース
この録音は「Dialogue」と命名されている。ダイアローグ、すなわち対話だが、これは川島誠のアルトサックスソロである。楽器を持つ他者との対話ではない。
川島誠の吹く音に耳をゆだねていると、しばしば、記憶の奥底に沈んだ残滓のようなものを探られ、それが増幅されるような印象を抱くことがある。それは暴力的なやり方によってではない。咽び泣き、叫ぶような瞬間は、確かにある。しかし、露悪的で苛烈な音塊をぶつけ、それにより聴き手を強引に震わせるような手段を取ってはいないのだ。また、楽器と肉体との融合による音響の追及というわけでもない。
本盤では、福島のジャズ喫茶パスタンの松坂敏子氏と、モダーンミュージック/PSFレコードの生悦住英夫氏に対する謝辞が捧げられている。ふたりとも最近相次いで亡くなった。川島誠が心の中で思い浮かべる対話の相手は彼らなのだという。だがそれは、自己という他者に他ならないのではないか。
彼は、その対話において、極端な音や独特な音響を自身のアイデンティティとして提示するという戦略を棄て去っている。従って、他のアルト吹きと比較したくはない。
あるがままの表現、それは、極めて孤独な作業に違いない。だからこそ聴き手は動揺してしまう。
(文中敬称略)