#1450 『Racha Fora / Happy Fire:New Kind of Jazz』
今月の Cross Review #3 :『Racha Fora / Happy Fire:New Kind of Jazz』
text by Yumi Mochizuki 望月 由美
Jazz Tokyo-1002 /インパートメント
Racha Fora
Hiroaki Honshuku – flute/piccolo (track 1)/EWI (track 6 & 10)
Rika Ikeda – violin (track 1, 3, 5, 7, 9)
Andre Vasconcelos – guitar
Harvey Wirht – cajon (track 2, 4, 5, 6, 7, 8, 10)
Sebastian “C-bass” Chiriboga – cajon (track 1, 3, 9)
Special Appearance:
Yuka Kido – Mint Can (track 3)
1. Nardis (Miles Davis)
2. All The Things You Are (Jerome Kern)
3. Happy Fire (Hiroaki Honshuku)
4. In A Sentimental Mood (Duke Ellington)
5. Estamos Aí (Einhorn/Ferreira/Werneck)
6. Summertime (George Gershwin)
7. Someday My Prince Will Come (Frank Churchill)
8. Blues In The Closet (Oscar Pettiford)
9. Nem Um Talvez (Hermeto Pascoal)
10.A Foggy Day (Gershwin)
All the selections arranged and directed by Hiroaki Honshuku
Produced by Hiroaki Honshuku, assisted by Yuka Kido
Recorded on 9/9/2016 & 9/18/2016 at A-NO-NE Studio, Waltham, MA, USA, and 6/16/2017 at Dreamworld Productions, Lynn, MA, USA
Recording Engineer: Hiroaki Honshuku (A-NO-NE Music, Cambridge, MA) <www.anonemusic.com><www.hirohonshuku.com>
Recording Equipment: Metric Halo ULN-8, 2882 2d x 2, ULN-2 2d <www.mhsecure.com>
Recording Assistant Engineer: Doug Hammer <www.dreamworldpd.com>
Mixing Engineer: Katsuhiko Naito (Avatar Studios, NYC) <www.avatarstudios.net>
Mastering Engineer: Katsuhiko Naito
Cover art (Xylograph): Anamaria de Assis Brasil
Graphic Design: Dylan Aiello <http://www.dylanaiello.com>
Photos: Yuka Kido
Hiroaki Honshuku plays Akai EWI
アルバム『Racha Fora / Happy Fire:New Kind Of Jazz』はハシャ・フォーラの第三作目にあたる。
本誌2015年10月号 #1259で稲岡編集長が前作『ハシャ・フォーラ/ハシャ・ス・マイルス』のレビューでハシャ・フォーラの意味やヒロ・ホンシュクさんのキャリアそしてグループの紹介を綿密に語られているのでご覧いただきたい。
自他ともにマイルス・フリークとしてしられるヒロ・ホンシュクであるが、本アルバムではさらに飛躍してジョージ・ラッセル(p,comp,arr)、マイルス・デイヴィス(tp)、ビル・エヴァンス(p)そしてヒロ・ホンシュク(fl,EWI)がサイクリカルに巡っている。
演奏曲もサブ・タイトルの「New Kind Of Jazz」の言葉通りマイルス作曲の(1)<ナーディス>やエヴァンスの愛奏曲(7)<サムデイ・マイ・プリンス・ウィル・カム>、エリントン作品(4)<イン・ア・センチメンタル・ムード>や通好みのオスカー・ペティフォード(b)作曲の(8)<ブルース・イン・ザ・クローゼット>からエルメート・パスコアールの (9)<Nem Um Talvez>はマイルスがレコーディングをしていて後に『The Complete Jack Johnson Sessions』(CBS, 1969~1970)で陽の目を見た曲、ガーシュインの (10)<ア・フォギー・デイ>など広範囲の選曲で、ハシャ・フォーラを聴くのは本作が初めての体験であってもすっと中に入れるし、聴きやすい構成になっている。
ヒロ・ホンシュクの本作にかける意気込みは一曲目の(1)<ナーディス>に端緒にあらわれている。
ナーディス、とくにエヴァンスの演奏には人一倍思い入れがあるという人は多いと思うし筆者もその一人である。
『EXPLORATIONS』(Rivereside,1961)にはじまり、死の直前までこの曲を演奏し育み続け、晩年のスペインのバルボア・ジャズ・クラブ録音『The Complete Balboa Jazz Club』(GAMBIT,1979)での<ナーディス>は精神の高揚の極みがほとばしり出ていて耽美の極致にいたっている。
そんなエヴァンスの心象を見事にひっくり返し明るいオープン・マインドなブラジリアン・テイストの<ナーディス>に塗り替えてしまったのがハシャ・フォーラである。
ヒロ・ホンシュクのピッコロとリカ・イケダのヴァイオリンがマイルスの原メロディーを維持しながらもハッピーに跳ね回る。そしてそんな陽性な中にもちょっぴりロマンをのぞかせるところがハシャ・フォーラの他と違っている特質のようでこの巧妙な仕掛けに意表を衝かれる。
これまでピッコロの演奏はルー・タバキンやジョー・ファレル、ポール・ホーン等で親しんできたがヒロ・ホンシュクのピッコロの音色はかなりの骨太でダイナミックにスイングしている。
<ナーディス>という曲はキャノンボール・アダレイ(as)のリヴァーサイド・レコーディング『Portrait of Cannonball』(Riverside, 1958)の際にマイルスが書いた曲とされているが、このレコーディング・セッションにはビル・エヴァンス(p)も参加していたので、エヴァンスが初めて<ナーディス>を弾いたピアニストということになる。
ヒロ・ホンシュクの師ジョージ・ラッセルもアルバム『Ezz-thetics』(Rivereside,1961)でエリック・ドルフィー(bcl)、ドン・エリス(tp)、デイヴ・ベイカー(tb)という重量級の3管で荘厳な<ナーディス>を録音している。
一方のエヴァンスはジョージ・ラッセルのワークショップ『Jazz Workshop』(RCA,1 956)に参加して以来、ジョージ・ラッセルとの親交を深め折りに触れて行動を共にしている間柄である。
こうしてマイルス~エヴァンス~ラッセル~ヒロ・ホンシュクの音楽的なサークルが連なってくる。
ハシャ・フォーラのリズムの要には通常のドラムではなくカホンが用いられている。
カホンは箱形のパーカッションで通常、手のひらで叩いたりこすったりして人肌の通った暖かいリズムを出す楽器でグループのリズムの要になっているが、日本でも阿佐ヶ谷のジャズ・ストリートなど街角で叩いているのをよく見かける打楽器である。
陽性で変幻自在なカホンのリズムは健康的でハッピーなグルーヴを醸しだすのに貢献している。
アルバム・タイトルの(3)<Happy Fire>はそんな南米のリズムが満載の曲であるが、激しいリズムの洪水の中にヒロ・ホンシュクのフルートとリカ・イケダのヴァイオリンとのユニゾンが浮かび上がる。
そしてアンドレ・ヴァスコンセロス(g)が艶っぽく二人に絡むあたり楽器編成こそ違うもののそこにはフランス・ホット・クラブ5重奏団に通じる哀愁もほのかに漂っている。
ハシャ・フォーラの新作『Happy Fire:New Kind Of Jazz』(Jazz Tokyo)にはマイルスやラッセル、エヴァンス等々の先達の研究とか学習から得たものを超えた地点でヒロ・ホンシュク自らが築き上げたサウンドをネイティヴなブラジルのリズムに乗せて高らかに鳴り響かせている。
ハシャ・フォーラは今年の10月には来日し、10月28日の「阿佐ヶ谷ジャズストリート」新東京会館などのコンサート・ツアーを計画しているということなので生の音でヒロ・ホンシュクのフルート、そしてホットなブラジリアン・テイストを味わってみたい。