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CD/DVD DisksNo. 236

#1465『TAMAXILLE/Live at Shinjuku PIT INN』

text by Yumi Mochizuki 望月由美

ピットインレーベルPILJ-0011 ¥2,500円+税

本田珠也 (ds)
類家心平 (tp)
井上 銘 (g)
須川崇志(b,elb)

1.ソーラー(M.Davis)
2.  クワイエット・モーメント(辛島文雄)
3.  ライト・オフ(M.Davis)
4.  アイ・リメンバー・クリフォード(B.Golson)
5.流氷(日野元彦)

プロデューサー:本田珠也
共同プロデューサー:品川之朗(ピットインミュージック)
エグゼクティヴ・プロデューサー:佐藤良武(ピットインミュージック)
エンジニア:菊池昭紀(ピットインミュージック)
録音:2017年6月5日 新宿ピットインにてライヴ録音

 

ケイ赤城(p)トリオや峰厚介(ts)カルテット、清水くるみ(p)とのZEK3、ペーター・ブロッツマン(reeds)等々のヘヴィー・サウンズを爆発的なパワーで支えてきた本田珠也(ds)のニュー・カルテット「TAMAXILLE」の新宿ピットインでの旗揚げコンサートの模様をライヴ録音したもので、ニュー・ユニット誕生の熱い息吹き、そして激しいリズムの饗宴が繰り広げられている。

新生「TAMAXILLE」はギター、ベース、ドラムのギター・トリオにトランペットが加わったピアノ・レスのカルテット。
ドラムスがリーダーのこの編成と云えばすぐさまジャック・ディジョネット(ds)の『New Directions』(ECM,1978) (Jack DeJohnette featuring Lester Bowie, John Abercrombie and Eddie Gómez)が頭に浮かぶが珠也の熱気、推進力、そしてグループの統率力はディジョネットをもしのぐ勢いである。
演奏している曲がまたジャズ・ファンの心をくすぐる曲ばかりで、もうこれ以上の選曲はないという曲が選ばれていて、これらの名曲を堂々と演奏するあたりに珠也の自信とユニットに対する信頼感がうかがえる。

(1)<ソーラー>はマイルス・デイヴィス(tp)が『WALKIN’』(Prestige 1954)でケニー・クラーク(ds)のブラシにのってクールに燃えた。
ここでは類家心平 (tp)がテーマをさらっと吹き、すぐに井上銘(g)のソロに変わる。この場面転換が見事である、シングル・トーンの(g)も美しいがそれを珠也がぐんぐんあおる。
いきなり冒頭からリズムの饗宴に酔いしれる。
1964、マイルス・クインテットの東京公演『MILES IN TOKYO』(CBSソニー 1964)のトニー・ウイリアムスの影がオーバーラップする。
とにかくヘヴィーだが軽い、それでいて軽率さはみじんもない。
珠也の精神や奏法はフリーだが基本は4つだから安心して音楽に入り込める。
(tp)~(b)のソロを経て(g)~(ds)~(tp)~ds)のバースが延々と繰り広げられる。
ドラムと各楽器のバース、ソロ交換はドラマーがリーダーのライヴではステージ後半に盛り上がることが多かったように記憶しているが「TAMAXILLE」はしょっぱなからにして大盛り上がりである。

(2)<クワイエット・モーメント>は珠也のかつての師の一人、故・辛島文雄(p)を偲んでの選曲かと思う。
(b)、(g)、(ds)がイントロを奏で(tp)が辛島のバラードをノン・ビブラートで丁寧に吹く。
飾り気なしにストレートにふくオープン・トランペットが曲の持つ美しさを際立たせる。
続く須川崇志のベース・ソロはギターのように速いパッセージをやすやすとつま弾く。
しかし、しなやかで速さを感じさせずにバラードの落ち着きを保っているところは新世代らしい。
須川はニューヨークで菊地雅章(p)と出会い、菊地の推薦で日野皓正(tp)クインテットに加入、以降ジャズ・シーンから引っ張りだこの状況で現在も峰厚介(ts)カルテット、石井彰Chamber Music Trio、八木美知依(箏)そして本田珠也(ds)等と共演している。類家がミュートをつけて、しかし辛口のソロをとりギターの井上銘(g)へとつなげる。
井上のシングル・トーンのソロのバックでは珠也がシンバルの嵐で井上を鼓舞する。

(3)<ライト・オフ>はご存知マイルスの『Jack Johnson』(Columbia 1970)からの一曲。
発表当時はジョン・マクフリン(g)、マイケル・ヘンダーソン(elb)、ビリー・コブハム(ds)のヘヴィーなリズムにとまどいながらも酔いしれた記憶があるがここでの珠也(ds)、井上(g)、須川(b)のリズムはアグレッシブでファンキーである。
須川のどすの聴いた(elb)と珠也のパンチの聴いた(ds)が井上(g)を否応なく高みに導く。
珠也のチチ,チチというハイハットの響きが心地よい。

(4)<アイ・リメンバー・クリフォード>はベニー・ゴルソン(ts)の作。
ブラウニー(tp)そしてリー・モーガン(tp)『Lee Morgan Vol.3』(Blue Note 1957)を反射的に想い浮かべる。
ここでは、類家心平がそうした思いを内に秘めてかメロディーをほとんどくずさずストレートに唄い上げる。
頬を大きく膨らませマイクに向かって吐息のようなブレス・ノイズを漏らしながら輝きにみちた音を繰り出す類家の顔が見えるようである。

(5)<流氷>はもうご存知、日野元彦(ds)の『流氷』(TBM,1976)からの一曲。
オリジナル演奏は清水靖晃(reeds)、山口真文(ts)の2管に渡辺香津美(g)、井野信義(b)に日野元彦(ds)というクインテット。
ここでは(b),(g)のイントロから(tp)と(g)がテーマに入るがその背後から珠也がビシビシ迫る、きびしいリズムだ。
さあ、もっと激しくブローしろ、もっと、もっと、と迫る。
これだけ激しく煽り立てられたらフロントも熱くならざるを得ない。
全員が火のように燃え、(tp)のトリルが激しさを増す。
ここは珠也のヘヴィーなリズムを聴く。
バスドラの連打、スネアの炸裂、秘術の限りを尽くしての珠也のドラム・ソロのショー・ケースが5分30秒ほど続き大団円を迎える。

ドラムがリーダーのアルバムの場合、得てしてドラムが前面に出過ぎるケースもあるが、ここでの珠也は音こそ大きいものの決してうるさくならずジャスト・フィットしている。
珠也のツイッター等を拝見していると珠也は日ごろから様々な音楽に興味を持ちレコード・コレクターとしての眼も持っているようで、音楽をよく知っているからこそ全体の流れ、調和、バランスを大事にすることが可能なのだと思う。
通して聴くと72分41秒、『TAMAXILLE/Live at Shinjuku PIT INN』は珠也のリズム、4人のスイング感、グルーヴが全てで、かくしてピットインの夜は更けてゆく。

望月由美

望月由美 Yumi Mochizuki FM番組の企画・構成・DJと並行し1988年までスイングジャーナル誌、ジャズ・ワールド誌などにレギュラー執筆。 フォトグラファー、音楽プロデューサー。自己のレーベル「Yumi's Alley」主宰。『渋谷 毅/エッセンシャル・エリントン』でSJ誌のジャズ・ディスク大賞<日本ジャズ賞>受賞。

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