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CD/DVD DisksNo. 236R.I.P. ムハール・リチャード・エイブラムス

#1463『Muhal Richard Abrams featuring Malachi Favors / Sightsong』

RIP Muhal Richard Abrams

Black Saint BSR0003
Produced by Giacomo Pellicciotti
Recorded October 13-14/1975 at Generation Sound Studios, New York
Engineer: Tony May
Cover Art: Ariel Soule
Back Cover Photos: Giueppe G. Pino

Muhal Richard Abrams (p)
Malachi Favors (b, miscellaneous perc, vo)

1. W.W. (Dedicated to Wilbur Ware)
2. J.G. (Dedicated to Johnny Griffin)
3. Sightsong
4. Two over One
5. Way Way Way Down Yonder
6. Panorama
7. Unity (Dedicated to the A.A.C.M.)

ムハール・リチャード・エイブラムスのピアノ演奏がどのようなものであったかを説明することは難しい。そのことは、まだエイブラムスが30代のときに吹き込まれた『Young at Heart / Wise in Time』(Delmark,1969年)のA面、40代半ばでの『Afrisong』(Whynot/Trio Records,1975年)、60代後半の『Vision toward Essence』(Pi Recordings,1998年)といったピアノソロを聴くとたしかなことに思えてくる。いずれもとても素晴らしい。しかし、具体的になにが素晴らしかったのかを説明できないまま演奏が過ぎ去ってしまっている。

おそらくは、故ジャキ・バイアードや、ひょっとしたらいまのサイモン・ナバトフがそうであるように、過去から現在までのピアノ演奏の歴史を一身に引き受け、並列に提示したこともその理由のひとつなのではないか。エイブラムスはかつて、スコット・ジョプリン集を出そうとしたこともあったというのだから。

エイブラムスにはデュオ作品も少なくない。その中で、ベーシスト、マラカイ・フェイヴァースと組んだ『Sightsong』(Black Saint,1975年)はひときわ独特な魅力を持った作品である。ウィルバー・ウェアに捧げた曲、ジョニー・グリフィンに捧げた曲、そして自らも総裁を務めたAACM(Association for the Advancement of Creative Musicians)に捧げた曲、すなわちここにはシカゴへの想いがある。聴く者にとっては、それが自分のルーツへの想いにとってかわる。

本盤に収録された「Two over One」は、のちにチコ・フリーマンやグレッグ・オズビーにもカヴァーされた名曲である。それらも悪くはないのだが、あらためて本盤の演奏に戻ってくると、オリジナルは驚くほど鮮やかだ。柔らかく溜めたフェイヴァースのグルーヴに対して、エイブラムスは意外なほどにぎくしゃくと弾いていて、硬質な光を放っている。そのようなフェイヴァースの柔らかさとエイブラムスの硬さとの対比、また、短く凝縮された演奏といったものが、本盤の魅力でもある。

しかし、それだけではない。エイブラムスは、汲んでも汲みきれない何かを持つ作品を残した。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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