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Jazz and Far Beyond

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CD/DVD DisksNo. 237

#1474 『Sun Ship / Live at Blue Z』

Lodestone LS-007

Recording Engineer: Shiro Hatta
Jacket Design & Photo: Shiro Hatta
Production cooperation: Shigeki Sakurai, Yusuke Yokohama, Shiro Hatta
Recorded on Aug 27, 2017 at Blue Z Hall
Printed in Taiwan

1. Can’t Talk to You Now! (T. Namiki)
2. First Song (C. Haden)
3. Natural (S. Murakami)
4. Imagine (J. Lennon)

Sun Ship with Guevara:
Takashi Namiki 並木崇 (ss, ts)
Shunji Murakami 村上俊二 (p)
Satoshi Kawasaki 川崎聡 (b)
Kazushige Kitamura 北村和重 (ds)
Yuji Guevara Takenobu 武信ゲバラ雄次 (as)

サンシップは1997年に結成されてから20年を迎えた長寿バンドだ。メンバーも、ドラマーが当初の高山昌一から現在の北村和重に変わった以外は基本的に同じである。最近では、アルトサックスの武信ゲバラ雄次を時折ゲストとして迎えている。

結成までにはさまざまな活動があった。たとえば、テナーサックスの清水ケンG(現・清水賢二)のバンド、また、サンシップのメンバーに加えて(当時、並木はアルトを吹いていた)、渡辺隆雄(トランペット)、清水ケンG(テナーサックス)、吉田隆一(バリトンサックス)という7人編成のグループ・ミカラム(MURAKAMIのアナグラム)、など。

サンシップは、東京・大塚のWelcome-Backにおいて月にいちど演奏を行ってはいるが、むしろ、千葉県成田市のクラウド9や栃木県足利市のオーネットなど東京以外の関東圏を活動エリアとしている。ゲバラは鳥取県在住であり、本盤も鳥取で録音されたものだ。かれが30歳になったころの1980年に、フォークシンガー・山本シンとともに鳥取に来た川下直広(サックス)と出逢い、その後も共演を続けている。また上に書いた清水は、現在、郷里の山口県や九州を中心に活動している。あえて言うまでもなく、ジャズは巨大都市だけのものではない。さまざまな街で、ジャズへの想いが脈動し続けてきた。

1曲目の「I Can’t Talk To You Now!」は並木のオリジナルであり、かれの太いテナーがいきなりサウンドを形成する。そのあとのゲバラのアルトソロは、エリック・ドルフィーのように楽譜上を跳躍する(ところが、アルバート・アイラーを目指してサックスを吹き始めたゲバラは「譜面も読めないしコードもわからん」と言うのだから驚きである)。川崎の粘っこいベースも、バンドを駆動する北村のドラムスも見事である。

2曲目はチャーリー・ヘイデンの名曲「First Song」。ここで村上のイントロのあとに来るゲバラのアルトソロは、濁り、泡立ち、右肩上がりに音圧が強くなってゆく。実際にライヴにおいても、顔を紅潮させ、ありったけの熱をアルトに吹き込む姿をみることができる。それを引き継ぐ並木のテナーも、はじめはドライで落ち着いたものでありつつも、次第に熱を帯びてくる。川崎のベースは強く弦を震わせている。

そして、「Natural」である。1998年のサンシップ初録音作品『Live at “Porsche”』(Lodestone)においても演奏された村上のオリジナルであり、当時も今も情熱を放出していることこそが、20年続くサンシップのアイデンティティだと言えるのではないか。並木は20年前にはアルトを、現在はこの曲ではソプラノを吹き、聴く者の胸を熱くさせる。村上のピアノはソロでもバッキングでも強烈だ。一聴してドン・プーレンを想起させる鍵盤のかき乱しだが、地面を叩いては前へ前へと突き進む姿においても、またソロに入る際の大いなる助走においても、とても独特な個性を発散している。かつてメーザー・ハウスで板橋文夫に師事したという、そのこともこの力強さにつながっているのかもしれない。

アルバムはジョン・レノンの「Imagine」で締めくくられる。熱さのあとの抒情からはカタルシスが得られるものだ。またここにきて、北村のドラムスがリズムを刻み続けていたことに気付かされる嬉しさもある。物語をかたって聴かせるような並木のテナーや川崎の弓弾きがまた素晴らしい。

目新しいコンセプトを提示して進歩らしきことを証明するばかりがジャズではない。それはきっと信じるものでもある。サンシップの航海はまだこれからも続いてほしい。

(文中敬称略)

齊藤聡

齊藤 聡(さいとうあきら) 著書に『新しい排出権』、『齋藤徹の芸術 コントラバスが描く運動体』、共著に『温室効果ガス削減と排出量取引』、『これでいいのか福島原発事故報道』、『阿部薫2020 僕の前に誰もいなかった』、『AA 五十年後のアルバート・アイラー』(細田成嗣編著)、『開かれた音楽のアンソロジー〜フリージャズ&フリーミュージック 1981~2000』、『高木元輝~フリージャズサックスのパイオニア』など。『JazzTokyo』、『ele-king』、『Voyage』、『New York City Jazz Records』、『Jazz Right Now』、『Taiwan Beats』、『オフショア』、『Jaz.in』、『ミュージック・マガジン』などに寄稿。ブログ http://blog.goo.ne.jp/sightsong

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