#1501 『石井彰/Silencio~ Chamber Music Trio』
text by Yumi Mochizuki 望月由美
Studio TLive Records STLR-017 ¥2,800+tax
石井彰(pf)
須川崇志(cello)
杉本智和(b)
1.Silencio(石井彰)
2.Jade Visions (S.Lafaro)
3.Selim(M.Davis/H.Pascoal)~My Way(C.Francois/J.Revaux)
4.Intermission Music(C.Bley)
5.Una Fermata di Memoria(杉本智和)
6.Chopin Prelude NO.4(F.Chopin)
7.Frags(C.Bley)
8.Dawn(石井彰)~Pastel(菊地雅章)
9.In the Still of the Night(C.Porter)
プロデューサー:多田鏡子(株式会社ラルゴ音楽企画)
エンジニア:田中徳崇
録音:2017年11月6日 & 7日 西東京市 保谷こもれびホール
写真:石井彰
石井彰(p)が2年ほど前に立ち上げたチェロ、ベースにピアノという編成の室内楽的なトリオのファースト・アルバム。
チェロを活かしたジャズの作品にはオスカー・ペティフォードの『My Little Cello』(Debut 1960)やフレッド・カッツの『Soulo Cello』(Decca 1957)ロン・カーターの『Where?』(Prestige 1961)等々があるがこの編成での作品は初めてである。
このトリオ、ドラムのかわりにチェロを入れたことによりエネルギーのバランスがソフトになり自然で一体となって溶け込んでいる。
光が交じり合えば白になる、キャンバスの絵の具が混じり合うと黒になる。
ここでの3人の音は石井の想い描くキャンバスの上で融合し漆黒の世界を描いている。
しかし、ひとり一人の音は粒立ちがよく白く光り輝き、それぞれが際立って存在感を示している。
(1)<サイレンシオ>はアルバム・タイトル曲で沈黙とか静寂を意味する。
このトリオの音楽を石井彰は漆黒のロマンと表現しているが石井のピアノは静けさの中にも厳しさ、激しさも秘めていて相当にテンションが高く、緊密度の濃い演奏である。
ドラムが入っていないことも作用してチェロやベースの弦の軋みがこのトリオの個性をより鮮明に際立たせている。
(2)<ジェイド・ヴィジョン>は故スコット・ラファロ(b,1936~1961 25歳)が交通事故で亡くなるわずか2週間ほど前の1961年6月25日(日曜日)にビル・エヴァンス(p)と「ヴィレッジ・ヴァンガード」で演奏『Sunday at the Village Vanguard』(Riverside 1961)した曲。
杉本のベースからスタートするが骨太でずっしりとしたピチカートが演奏の方向を指し示す中を石井のピアノが絡む、懐かしいエヴァンスの香りが馥郁と漂う。
学生時代からエヴァンスを聴きこみ研究してきた石井の弾くエヴァンスは奥が深い。
(3)<セリム~マイ・ウェイ>はマイルスを基調としたメドレーで<Selim>は『Live Evil』(Columbia 1970)に収められていたMilesを逆さ綴りにした曲。
チェロがリードしピアノが絡むスローな静寂のムードで進行するが突然ピアノが爆ぜ一転してミディアム・テンポとなり、マイルスの『Kind of Blue』(Columbia 1959)<オール・ブルース>調のリフにのって<マイ・ウェイ>に移る、この曲つなぎが鮮やかである。
このように石井のジャズへの造詣の深さ、思い入れの深さが随所に見られて興味深い。
また、アルバムにはカーラ・ブレイ(p)の曲が(4)<Intermission Music>と(7)<Frags>の 2曲演奏されている。
カーラは1997年、弦楽4重奏に木管を加えた『Fancy Chamber Music』(Watt/ECM 1997)を残していることもあり、石井の探究心を向ける対象のひとりなのかもしれない。
(6)<Chopin Prelude NO.4>はショパンのプレリュード、というよりもジャズ・ファンにとってはジェリー・マリガン(bs)の『NIGHT LIGHTS』(PHILIPS 1963)でのマリガン(bs)ブルックマイヤー(tb)、A.ファーマー(tp)のゆったりとした3管のサウンドに心を癒された方も多いと思うが、ここでのチェロがリードするチェンバー・ミュージック・トリオも心を穏やかにさせてくれる。
子供の頃にチェロを学び、のちにベースに転じたという須永崇志(cello)が水を得た魚のように全編にわたってソロをとる。
このチェンバー・ミュージック・トリオを支えている魂柱が杉本智和(b)のベース・プレイにある。
チェロが宙を舞い、石井のピアノが縦横にソロをとるのを杉本のベースがずっしりと支えている。
かつて『Out There』(Prestige 1960)でジョージ・デュビビエ(b)の安定したリズムの上に乗ってロン・カーター(Cello)がのびのびとチェロを弾きまくっていたように、ここでは杉本の太いベースがチェロとピアノを開放しているようである。
杉本のオリジナル曲(5)<Una Fermata di Memoria>では足取りのしっかりしたソロでその存在感を示している。
石井彰は前作の『エンドレス・フロウ/石井彰』(Studio TLive Records 2013)で杉本智和と、日野皓正のグループで須川崇志と一緒だったこともあり、二人とは様々なシーンで深いかかわりをもってきたがこの3人が集まって「Chamber Music Trio」として演奏を始めたのは2年前からだそうで、以来折にふれて演奏を重ね、互いに強いパートナーシップを築き上げてきた結果が本作品『石井彰/Silencio~ Chamber Music Trio』(Studio TLive Records 2017)に結実している。
石井彰、須川崇志、杉本智和、Silensio、Chamber Music Trio、シルレンシオ