#1550 『山田唯雄 / 1.0 (one)』
text by Akira Sekine 関根彰良
シルフィードレコーズ SREC0101 ¥2500(税別)
山田唯雄 (g)
1. 記憶の告白 –ギター独奏のための– (伊藤彰)
2. プレリュード (ポンセ)
3. チャッコーナ(ヴァイオリン・パルティータ2番 BWV-1004) (バッハ)
4. パッサカリア (タンスマン)
5. 大ソナタ・エロイカ (ジュリアーニ)
6. 麗しき小川の岸辺の主題による序奏と変奏 (ソル)
7. 序奏とカプリス (レゴンディ)
8. ノクターナル (ブリテン)
2018年1月16-17日 かながわアートホールにて録音
プロデューサー:竹内永和、樋浦靖晃
ディレクター:竹内永和
録音 & マスタリング:近藤秀秋
最初に、クラシックギターに関して(聴くのは大好きではあるが)専門外である筆者がこのようなCDのレビューを書かせて頂くという点をお許しいただきたい。しかし同時に、私がこれを書くことによって、クラシック専門ではないミュージシャン及び音楽ファンがこのCDに興味を持って下さることがあれば、これほど嬉しいことはない。そのくらい多くの方に一聴をお勧めしたい作品である。
「1」は山田と同年代の日本人作曲家、伊藤彰による現代曲。これをアルバムのオープニングに持ってくるあたり、のっけからただごとではない雰囲気が漂う。
打って変わって清涼感溢れる「2」から私が個人的に大好きなバッハ曲「3」へ。
山田唯雄の素晴らしい点は、何と言っても、芯のある美しい音。その美しい音をダイレクトに捉えた録音の良さも特筆すべきだろう。楽器全体がたっぷりと鳴っているさまがそのままパッケージされている。そして、表情の豊かさ。ピアニシモからフォルテシモまでの幅広いダイナミクス、何パターンにもわたる音色のバリエーション、その双方が音楽的必然性に従って的確に用いられている。もちろん、これらを支える盤石のリズム感があるのは言うまでもない。
抒情的な曲調のなかで表現力が光る「4」、フルオーケストラのサウンドを彷彿とさせる「5」、いずれも確かな技術に裏付けられた、余裕を感じさせる演奏だ。
牧歌的な旋律が印象的な「6」、技巧を駆使している中でも音の美しさを失わない「7」。
そしてラストの「8」は再び現代曲。後半で反復される低音の旋律が何とも言えないざらつきを聴く者に残す。こうした楽曲を積極的に取り入れ、古典と並べて演奏するあたりに、山田唯雄の音楽的間口の広さが見て取れる。
全8曲入りで77分。ここまで大曲揃いなのに、ただそれを弾いただけという枠には全く収まりきらない、壮大な音楽的地平をギター一本で創り出している。
今後のさらなる飛躍が楽しみなギタリストのデビュー作。とかく狭い世界の中でしか聴かれることのないクラシックギターというジャンル、その垣根を飛び越えてこの作品が一人でも多くの方に届いて欲しい。(ギタリスト)