#1563『Edoardo Marraffa / Diciotto』
text by 定淳志 Atsushi Joe
Edoardo Marraffa / Diciotto
(Aut Records)
- Gentilezze
- Astolfo sulla luna
- Rodomonte
- Figurati!
- Fantasmi di Nadia
- Franco e Giorgio
- Alice
- Red Carpet
- Scendo
- Mura sonanti
- Staccati stàccati lèvati
- Non credo
- Golden square
- Diciotto
- La gran follia
Edoardo Marraffa – tenor and sopranino sax
All Tracks composed by Edoardo Marraffa, track 12 by E. Marraffa, L. Mosso, M. Sabatini.
Recorded at La Mura San Carlo, San Lazzaro Di Savena (Bo) on 10/03/2018
Edoardo Marraffa はイタリアのボローニャを拠点に活動するテナーサックス奏者(ほかにソプラニーノなど)で、1990年代から活躍する。「Mrafi」「Casino di Terra」「MAGIMC」「Eco D’Alberi」「Tell No Lies」といったグループで活動し、イタリア国内はもちろん、トリスタン・ホンジンガー、ウィリアム・パーカー、ハミッド・ドレイク、ハン・ベニンクといった世界的な即興系ミュージシャンたちとの共演も数多い。2008年には Eco D’Alberi で米国の Vision Festival に出演しており、その時の演奏は『Eco D’Alberi』(Porter Records / PRCD4054)に残されている(同グループには、ワダダ・レオ・スミスとの共演作もある)。
「Diciotto」とはイタリア語で「18」の意であり、本作品は彼にとって18年ぶり2枚目の無伴奏ソロアルバムになる。収録された15曲は全て自作(12曲目のみ、自身が参加するグループ「Vakki Plakkula」名義)で、古いものから最近作曲したものまでをそろえ、いずれも1分程度のものから長くても4分半ほど。また、いくつかの曲は、ルネサンス期イタリアのルドヴィーコ・アリオストによる叙事詩『狂えるオルランド』にインスパイアされたという。同作品はルネッサンス爛熟期が生んだベストセラーであり、16世紀ヨーロッパ文学の極致と称され、イタリアの現代作家イタロ・カルヴィーノにも影響を与えている。
アルバムは〈優しさ〉と題された、奏者の息吹が感じられるテナー演奏からスタートする。ソブラニーノに持ち替えた〈月の上のアストルフォ〉は、『狂えるオルランド』が出典。〈ロドモンテ〉も叙事詩の登場人物で、ここではテナーで表現される。〈想像せよ!〉は乱気流を思わせるソブラニーノが印象的だ。以降はテナーによるマルチフォニックを効果的に駆使した〈ナディアの幽霊〉、〈フランコとジョルジュ〉と続き、〈アリス〉は彼の娘に捧げられる。〈レッドカーペット〉〈降ります〉はソブラニーノ。以降テナーで〈音の壁〉、〈Staccati stàccati lèvati〉(は何かの言葉遊びなのだろうか)、〈私はそうは思わない〉を経て、〈ゴールデンスクエア〉は畳みかけるようなフレーズが最も「ジャズ」的なソブラニーノ演奏。タイトルチューン〈18〉と、最終曲〈偉大な狂気〉はテナーで締めくくられる。
Edoardo Marraffa のサックスは硬質でエッジの立った現代風の音だが、無機的な感じやメカニカルな印象は全くなく、荒々しさの中にもどこかナイーヴさを秘めているのが魅力だ。悲劇的でありつつもコミカルで、抒情的でありながらも勇壮な恋と冒険の物語『狂えるオルランド』は、彼の資質に合っていたと言えよう。前作『solo』(Bassesferec / BS005)ではやや内向的に閉じた印象もあったが、20年近くを経た本作は洗練され、深化した境地を感じさせる。